【映画評】ルイの9番目の人生

渡 まち子

© 2015 Drax (Canada) Productions Inc./Drax Films UK Limited.

ルイは生まれてから毎年、命にかかわるような危険な事故に遭い続けている。9歳の誕生日、彼は崖から海に転落し、奇跡的に命をとりとめたものの、こん睡状態に陥ってしまう。ルイを目覚めさせようと、担当医のパスカルはあらゆる手を尽くすが、ルイの病状は変わらなかった。一方で、ルイの父親ピーターが行方不明になり、母親ナタリーには警告文が届く。パスカル自身も悪夢にうなされ不可解な出来事が続くようになる。すべての事情を知るルイが眠り続ける中、パスカルはかつてルイのセラピーを担当した精神科医ペレーズを訪ねるが、次第に衝撃的な事実が明らかになる…。

9年間で9度死にかけた少年の秘密を描くサスペンス「ルイの9番目の人生」。原作はリズ・ジェンセンによるベストセラーで、人間の心に宿る闇を描く小説だ。全身骨折、感電、食中毒などなど、毎年遭う事故は死に直結する危険なものばかり。そんな数奇な運命の少年ルイの精神世界と、こん睡状態のルイを見守る大人たちの現実世界が交錯しながら物語は進んでいく。悪意を持つ何者かの仕業か。でもいったい誰が? もしやこの世のものではない力が働いているのか。 それはいったい何? ルイを特別な子として溺愛する母親が引用するのは「猫には9つの命がある」という言葉。すでに8つの命を使ってしまったルイは、最後の命をつなぎとめるために、夢の中で奮闘中というわけだ。

担当医と美貌の母親との恋が意外な方向へと向かう中、事故多発少年ルイの秘密にも思いもよらない展開が。荒唐無稽な物語が、真相を露わにするとき、立ち上ってくるのは、人間は根源的に愛されたいと願う生きものなのだという事実だ。悲しみと諦観に満ちた美少年ルイが選んだその道は、納得できないかもしれないし、ご都合主義とも思えるラストに首をかしげる人もいるだろう。それでも、海や水族館、ルイの夢の中の深海など、繰り返し描かれる水のモチーフとゆっくりと海に沈んでいくような感覚は、決して不快ではない。メガホンをとったのは、フランス出身でホラー映画の旗手、アレクサンドル・アジャ監督。本作は流血描写の代わりに、シュールでファンタジックな要素が組み込まれているが、見終わると、ゾクッとする怖さも。それは、子どもの心の中の傷みに気付かない身勝手な大人への警告なのかもしれない。
【65点】
(原題「THE NINTH LIFE OF LOUIS DRAX」)
(カナダ・英/アレクサンドル・アジャ監督/ジェイミー・ドーナン、サラ・ガドン、アーロン・ポール、他)
(ダーク・ファンタジー度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2018年1月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。