南樺太を「他国」と断ずるセンター試験の問題は悪問だ!

岩田 温

産経新聞がセンター試験の日本史Bの問題について報道した。私もコメントを寄せた一人として、もう少し詳しく書いておきたい。

センター試験の設問、「南樺太は他国を領有」に疑義 日本史B 「古くからロシア領」刷り込み懸念 – 産経ニュース

拙著『「リベラル」という病 奇怪すぎる日本型反知性主義』で詳述したことだが、9条を守っていれば日本は平和だと夢想する「リベラル」(カッコで「リベラル」としている意味については本書をお読み頂きたい)たちは、我が国の領土問題について軽視する傾向が強い。恐らく、出題者は悪質な意図を持っていなかったのだろうが、よく考えてみるとおかしな悪問になっている。

出題は次の文章に関連付けてされている。

「近代国家となった日本が、軍事的にアジア諸地域へ侵攻し、他国を植民地にしたり領有したりしたことも忘れてはいけない」

日本が「他国」を植民地にしたこと、領有したことに関しての問題だ。

この文章に関連付けられて、1906年の日露国境画定標石の写真が掲載され、この写真に関連する場所として南樺太を選択させる問題になっている。

確かに1905年の日露講和条約で南樺太の割譲が決定され、ロシア領であった南樺太が日本に割譲されたのは事実だ。この時点のみを取り上げれば「他国を植民地にしたり領有したりした」との文言は誤っているとはいえない。

しかしながら、センターの大塚雄作試験・研究統括官の「設問は近代日本の大陸政策についての理解を広く問うた」との言葉は、これと矛盾している。

樺太の問題は「広く問うた」ならば、この条約を結んだ瞬間にロシア領であったことだけではなく、江戸時代から松前藩の役所があったこと、日露両国民が混在の地であったこと、樺太・千島交換条約が存在し、その後にロシア領になったことを理解させるような問題でなければならないはずだ。

この瞬間のみを取り上げれば「他国」だが、かつては日本領と考えられていた時期もあったことを思い起こさせるような設問であることが望ましい。これを単純に「他国」としてしまうと、従来ロシア領であり続けてきた樺太を、日本が無理矢理奪ったと受験生が思い込みかねない危険がある。

当時の日本人の認識としては、「他国を奪う」というより、「奪われた領土を取り戻す」、失地回復という意識のほうが強かったのではないか。

仮に、この問題がロシア国内の歴史科目の試験問題であるならば、こういう書き方になっても致し方ないと思うが、ここは日本だ。

教育基本法では、「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」ことが謳われている。この地を郷土として生きた日本国民が存在したことを軽視するような問題は悪問だと言わざるを得ない。

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編集部より:この記事は政治学者・岩田温氏のブログ「岩田温の備忘録」2018年1月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は岩田温の備忘録をご覧ください。