牧歌的に思えるいちご狩りは合理的で高利益ビジネスだった

写真AC:編集部

こんにちは!肥後庵の黒坂です。

先日近所のいちご狩りにいってきました。自宅から車でわずか10分の場所に「いちご狩り」というのぼりが立っていたのを見て、1歳の長男を連れて吸い寄せられるように入ってしまいました。東京で果物狩りを楽しむとなるとこうはいきません。まずは果物狩りをやっているスポットへの移動が大変です。私が知る限り23区内に果物狩りができるスポットはありません。東京に住んでいる人が果物狩りをするとなると、電車を乗り継ぎ、駅からバスに乗ってまずは郊外の農園へ移動する必要があります。それがここ、熊本ではあちこちで果物狩りができるスポットがありますから、手軽に楽しめるエンタメとなっています。

いちご狩りに参加して感じたこと、それはいちご狩りは極めて合理的で利益率が高く、かつ農園と来場者の人たちとWin-Winになるビジネスだということです。

“甘くない”甘いいちごの栽培事情

いちごはスイカやメロンなどに比べると、利益率の高いフルーツです。

農林水産省「農業経営統計調査」より筆者作成

このようにいちごは他のフルーツと比べて、突出した年間所得があります。稼げるフルーツとして、生産・販売する業者は様々ないちごブランドを立ち上げ、近年では海外輸出にも積極的です。楽して稼げるわけではありません。いちごは栽培環境や生産技術が全面に出る果物で、出荷するまでにかなりの手間隙がかかります。品種も数多く存在し、痛みやすいので栽培した全てが高値で売られるわけではありません。高級品として取引されるいちごは収穫したものの中でも、形や大きさ、味や見た目の美しさに糖度など様々な基準を満たしたものだけです。

経費の面も無視はできません。いちごはハウス栽培が基本ですから、経費もかなりかかるフルーツです。栃木県の資料によると、新規でいちご栽培ビジネスを立ち上げるとなると1,460万円もの費用がかかるという試算があります。

いちご新規参入の標準的な経営モデルである栽培規模20aで試算した場合、パイプハウス690万円を含め、設備投資費用として約1,360万円、さらに1年目の資材を加えると、合計で約1,460万円が必要

引用元:栃木県農業試験場 研究成果集第31号「いちご新規参入の経営試算」

いちごが稼げるフルーツであるのは間違いありません。しかし、高級イチゴを栽培するには高い技術や経費が必要となります。甘いいちごも栽培して高値で稼ぐとなるとなかなか甘くない事情があるわけです。

また、高級ブランド品種はその全てに高値がつくわけではありません。果物は工業製品ではありませんから、当然大きさがまちまち、色づきにも差があります。百貨店に置かれているもののように全部が均一な大きさで美しい見た目に育ってくれるわけではありませんから、全てのいちごに高級イチゴとして高値がつけられるわけではないのです。

いちご狩りの高利益ビジネス

このように百貨店などで並ぶまでに、いちごは大変な手間暇と厳しい基準をくぐり抜ける必要があることがおわかり頂けたと思います。

それを考えるといちご狩りのシステムは、管理する農園にとって合理的で高利益のビジネスです。私が先日いってきたいちご狩り農園は大人1人1,500円で50分楽しめるようになっていましたが、この50分間の来場者対応の手間は最初の受付と前払い会計だけです。本来、いちごを出荷するまでに必要な収穫やサイズを揃えてパッキングといった手間が一切ありません。やってきたお客さんが好きに摘み取って食べ、満足して帰っていきます。私が滞在していた50分間の間に来場者はひっきりなしに3人、4人の家族単位で6-7組入ってきました。夕方前に行ってこれですから、ピーク時は更にお客さんは多いことは間違いありません。

また、いちご狩りに1人で遊びに行く人はあまりいませんから、少なくとも2人ペアで来場すると1組で3,000円の売上が立ちます。4人のグループが一時間に6回やってくるとそれで36,000円の売上になります。いちご狩りのピークタイムは10時から15時までの5時間で、このサイクルを5回繰り返すと一日18万円、1ヶ月で540万円になりますからかなりの売上です。また、いちごを食べ終えたら友人や家族にもお土産を買っていく(実際、私もお土産コーナーでいちごソフトを食べ、お土産をいくつか買ってしまいました)ので、売上は更に積み上がる計算になります。

熊本では1パックのいちごが400円前後ですが、わずか50分の間で3パック以上食べられる人は皆無でしょう。そう考えると原価も高くなく、回転率がいい上にお客さんは楽しく摘み取りをして満足した顔で帰っていきます。私がいってきたいちご狩り農園は梨やぶどうを狩り、みかんにりんご狩りもできるとパンフレットをくれました。いちご狩りに満足した来場者は、次は他の果物狩りにやってくるでしょう。リピーターが増えれば売上は底上げされて、安定的な利益率の高いビジネスを構築できるわけです。

インバウンド需要が超追い風

山梨県で観光農園を営んでいるある経営者の方は、得意な英語力を活かして農園の果物狩りや日本のフルーツの魅力を英語でサイト作成したところ、年間1000人以上の外国人が押し寄せる大人気農園になったそうです。周辺には英語を使える農園さんは皆無なので、一人勝ちの状態だと嬉しそうでした。私が先日訪れたいちご農園は日本語・英語・中国語・韓国語によるメニューがありました。2017年の訪日外国人数は2,800万人という予想もあって、凄まじいインバウンド需要が農園に吹いていることになります。

農園に流れる牧歌的な雰囲気からは想像もできないくらい、合理的で利益率の高いいちご狩りというシステムに驚きを感じた一時でした。

黒坂 岳央
フルーツギフトショップ「水菓子 肥後庵」 代表