専門家に聞いた!採用力を高めれば人手不足は解消する

尾藤 克之

いま多くの会社で人手不足が大きな問題になっている。特に、接客を行う商業、サービス業などの労働集約型産業(第三次産業)の採用環境は厳しい状態にある。この業界に属する会社の多くは、世間で言うブラック系が少なくないため採用競争力が低い。さらに、リテンションマネジメントの意識が希薄であることから離職率は非常に高い。

今回、紹介するのは『できる人材がすぐに辞めない職場のつくり方』(商業界)。著者は、人材育成などを手がけている、岡本文宏さん。人が辞めない職場づくりのノウハウ本になる。参考までに、版元の「商業界」は、流通小売業と外食業及びサービス業を対象とする経営専門誌を発行する出版社。私もシンクタンク在籍時に大変お世話になった。

人材マネジメント改革に待ったなし

昨今の、労働環境の変化といえば、労基署のブラック企業リストの公開が始まったことだろう。公開期間が1年間とはいえ「ブラック企業」の烙印がおされてしまうと経営的なダメージは大きい。会社のブランドが失墜することから、優秀な人材の確保はおろか、既存社員のモチベーション低下などを引き起こすリスクもある。

「自分には無関係と思われる方もいるかもしれません。しかし、リストで公表されること以外にも、採用活動に悪影響を与えるものが存在しているのです。それは、現場にいるスタッフの”クチコミ”です。日々の働き方に不満があり、労働法に違反する状態が続くと、自外の家族や周りの友人、知人にそのことを話す可能性があります。」(岡本さん)

「悪い噂が一気に広まります。小さな会社の場合、スタッフは近隣の住人から採用するケースが多いので、わざわざ、そこで働こうと思う人はいなくなってしまいます。そうかといって、スタッフに気をつかいすぎたり、ゴマをするのも本末転倒です。」(同)

岡本さんは、正しい倫理観を持ち、正しく経営を行っていれば、そういう噂は広まることはないと主張する。そのためにはスタッフにとって魅力的だと感じてもらうことが必要になる。では、魅力に感じてもらうにはどのような施策を講じるべきなのか。

「人材育成、マネジメントに関わることについては、結果が出るまでにある程度時間を要します。そのことを理解したうえで、じっくり取り組んでみてください。」(岡本さん)

採用力を高めるにはどうすべきか

採用は会社と学生とのお見合いだと言われることがある。しかし、対等なお見合いではない。会社にとって、学生は採用対象者であると同時に、広報対象者でありお客様である。そのことは学生もわかりつつあるので真摯な対応が必要になる。

「採用基準を満たせずに不採用になった人であったとしても、数ある店·会社の中からわざわざ選んで求人募集に応募してくれたわけです。また、今後はお客様として利用してくれる可能性も考えられます。そうであれば、今回はご縁がなく採用にまで至らなかったとしても、その合否結果について、真摯に対応することが必要です。」(岡本さん)

「例えば、メール1本で簡単に告げて終わらせるとか、預かっている履歴書を返却しないなど、ぞんざいな対応はすべきではありません。不合格者へは合否の結果を伝えた後、履歴書を返送します。合否結果を伝える際に、Eメールの使用は迷惑メールフォルダに入ったり、プロバイダーで消去されてしまう可能性があるので注意が必要です。」(同)

「お祈りメール」というものがある。これは、採用面接を受けた会社から送られてくる通知文に「今後のご活躍を“お祈り申し上げます”」と書かれていることから、このように呼ばれている。形式的な文面にいらだちを感じる学生が多いのだろう。しかし、会社はネガティブな意識を持つことなくファンでいてもらう努力をしなければいけない。

「不採用となれば、通知を受け取った瞬間は残念な気持ちになるでしょうが、その対応次第では、気持ちの整理ができた後からは、また以前と同様にお客様として店を利用してくれるようになるはずです。」(岡本さん)

例えば、気遣いや感情的な温かさを加味した不採用通知があってもいいのではないかと思う。「不採用」の事実は変えられないが、真摯な対応でネガティブな意識を軽減することは可能になるだろう。さて、筆者も同じく1月に新しい本を上梓したので、関心のある方は手にとっていただきたい。『あなたの文章が劇的に変わる5つの方法』(三笠書房)。

尾藤克之
コラムニスト