ポスト安倍は地方浮揚のビジョンで競え:平成カウントダウン②

2014年9月の国家戦略特別区域諮問会議に同席した安倍首相と石破氏(首相官邸サイト:編集部)

安倍晋三内閣においても成果が上がらなかったのが「地方振興」である。石破茂氏が地方創生相に就任したときは期待したが、「地方の自助を促す」という言い逃れ路線から一歩も出なかった。

特に里山資本主義など隙間狙い的なものでは、いくつかの成功事例はできても、地方から大都市、とくに東京への動きを止めるほどのパイはないのである

石破氏も、父・二朗氏が県知事を務め、自身も30年以上、衆院議員として選出(1区)された鳥取県が人口減少で、参院選挙区が島根県と合区されるありさまなのだから、これまでの地方振興策の延長線上ではダメだと気付くべきだった。

地方が苦しんでいるのは日本に限らないが、やはり移民との関係に着目すべきだろう。米国でも、先端企業経営者やインテリ層などリベラル派は移民に好意的だが、それは彼らが自分の仕事と生活のために移民を便利に使っているからだ。

大都市では生活費が高いので安い労働力が不足する。そこで、ローマでは奴隷を連れてきて、まずまずの生活をさせたが、原則、家族を持たせなかった。東京も、物価高で出生率が極端に低い地方出身者を使って都市機能を維持してきた。現在、日本全体では女性が一生に生む子どもは1.4人だが、東京では1.1人で、沖縄では1.8人だ。

しかし、少子化で地方人のあいだで地元志向が強まり東京は人材に枯渇してきた。本来なら、そこで「雇用の地方分散」が起きるはずなのである。つまり、東京では高い賃金を払わないと人材が集まらないし、企業のコストも高くなるからだ。

だが、移民がいるから正しく調整されないのだ。コンビニなどでも、中国人留学生が限度を超えて働くのを取り締まったら成り立たないだろう。ドナルド・トランプ米大統領を支持した地方のプアホワイト(=白人の低所得者層)の怒りはもっともだし、日本の地方の住人も立ち上がるべきなのだ。

ニューヨークのキャリア・ウーマンが雇うベビーシッターも、シリコン・バレーが必要とする中国人やインド人など移民たちを民主党を支持する人たちが必要としているのである。

河野太郎外相(同神奈川15区)の祖父である一郎元建設相は、田中角栄元首相に先立つ「建設族のドン」だったが、田中角栄氏のような選挙区の発展というだけでなく、国土全体のデザインを描けるワンランク上の存在だった。浜名湖周辺への首都移転、京都の国際会館、本四架橋は明石鳴門ルート、筑波の研究学園都市などを次々と構想した。

茂木敏充経済相(同栃木5区)は若いころ、『都会の不満 地方の不安』(中央公論社)という著書で名を上げた。小野寺五典防衛相(同宮城6区)の地元・気仙沼は東日本大震災の被災地であり、野田聖子総務相(同岐阜1区)は県議経験者である。

そして、希望の党の玉木雄一郎代表(同香川2区)は、「田園都市国家構想」を政権ビジョンとした大平正芳元首相の継承者とされる。それなら外交やマクロ経済だけでなく、こういう方面でも精神を引き継いでほしい。同党は小池百合子都知事の影響力が落ちたので、「東京集中反対」をいいやすい状況だ。

ぜひとも、「ポスト安倍」候補は、地方浮揚のためのビジョンを持って、競ってほしいと思う。

地方維新vs.土着権力 〈47都道府県〉政治地図 (文春新書)
八幡 和郎
文藝春秋
2012-10-19