それでも極右政党は躍進した

長谷川 良

オーストリアのニーダーエスターライヒ州で28日、州議会(定数56)選挙の投開票が行われた。同国で昨年末、クルツ首相が率いる中道右派「国民党」と極右政党「自由党」の連立政権が発足したが、その後の最初の選挙ということから、同州議会選の動向が注目されてきた。

ニーダーエスターライヒ州「自由党」党首ウド・ランドバウアー氏(2018年1月28日、オーストリア国営放送から)

結果はヨハンナ・ミクル=ライトナー州首相が率いる国民党が得票率約49.64%、過半数の29議席を獲得し、圧勝した。それを追って、社会民主党が約23.92%の得票率(2.3%微増)で第2位につけ、選挙戦では得票率と議席の倍化を目標としてきた自由党は得票率では14.76%(6.6%増)に留まったが、議席数では前回(2013年)比の倍の8議席を得た(投票率約66.47%)。

選挙結果を見る限り、クルツ連立政権は有権者の支持を受けていることが分かるが、政権発足後まだ6週間の現段階では評価を下すのは早過ぎるだろう。ちなみに、クルツ国民党党首(首相)は、「素晴らしい結果だ。連邦政治にとっても大きな支援となる」と歓迎している。

選挙結果で注目される点は、やはり自由党の躍進だ。選挙結果が判明した直後の記者会見で、同党のウド・ランドバウアー州党首は、「わが党は選挙終盤、メディアのネガティブな反自由党キャンペーンにさらされたが、議席の倍を成し遂げた」と勝利宣言をする一方、「反自由党キャンペーンでわが党がどれだけ損失したか明確な数字はまだないが……」と述べ、ナチス・ドイツを賛美した歌集が見つかったという報道で自由党がダメージを受けたことを暗に認めている(「極右党と『ナチス賛美の歌集』問題」2018年1月27日参考)。

ミクル=ライトナー州首相は、「州政府は全ての政党と連携したい」と表明する一方、「オーストリアの名を辱める者とは一緒にできない」と強調し、ナチス賛美の歌集問題を抱えるランドバウアー自由党党首との連携は考えられないと指摘している。

興味深い点は、イェルク・ハイダーが自由党党首時代、党首や幹部たちの反ユダヤ主義的発言が報道されると、その後の選挙で必ず得票率を大きく失ったが、今回、ランドバウアー州党首のナチス歌集問題がメディアに大きく報道されたにもかかわらず、得票率で6%以上増加し、議席の倍化を達成したことだ。すなわち、反ユダヤ主義的言動問題は有権者の投票に大きな影響を与えなかったという事実だ。

もちろん、ナチス賛美の歌集問題がなかったならば、自由党は社民党を抜き、第2党に大躍進していた可能性があったから、ランドバウアー党首のナチス賛美の歌集問題は自由党にダメージを与えた、という見方も可能だ。

有権者の最大関心事は今回は難民対策だった。その点、国民党と自由党は厳格な難民対策を主張してきたから、有権者の支持を得た。「自由党党首を巡るナチス歌集問題への批判票より、自由党の難民対策を評価する有権者が多かった」と受け取るほうが投票結果と一致している。

オーストリアでは今年、約2%の経済成長が見積もられている。失業者の数も減少傾向が見られる。その中で、多くの有権者は難民対策を最優先課題とする政党に投票したというわけだ。ちなみに、ニーダーエスターライヒ州のトライスキルヒェンには、同国最大の難民収容所がある。

今年はヒトラー・ナチス政権のオーストリア併合(Anschluss)80年を迎える。その年の最初の州議会選で反ユダヤ主義的歌集問題で批判される州党首を抱える自由党が躍進したという選挙結果は、やはり冷静に検証する必要があるだろう(「ヒトラーの『オーストリア併合』80年」2018年1月3日参考)。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年1月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。