金融機関の食欲の対象としての顧客との共通価値

 

新しい経営管理の枠組みであるリスクアペタイトフレームワークにおいて、金融機関は進んで受け入れるべきリスクを選択する以上、そこで問われるのはリスクに対する健全なる感性である。その感性をアペタイトとして味覚に譬えるとき、味覚なき利益の追求、空腹を満たすだけの旺盛な食欲ではなく、各自の文化的に洗練された味覚に応じた節度あるリスクテイクのあり方が求められるということである。

金融庁の森信親長官が「顧客との共通価値の創造」というとき、徹底した顧客の視点での価値創造が金融機関の利益の源泉であり、顧客の利益の上にしか金融機関の利益はあり得ないこと、いわば、利益至上主義から顧客至上主義への転換が強く謳われていることも論を待たない。

金融機関にとって、おいしい利益の追求のためにリスクをとることは、顧客や市場にとっては、必ずしも、おいしい利益をもたらすものではなく、むしろ、しばしば、まずい不利益をもたらし、ひいては、自分自身の不利益にもつながり、結果的には、まずいリスクのとり方となる。

それに対して、顧客の視点で、おいしい価値の追求のためにリスクをとることは、顧客や市場にとっても、また自分自身にとっても、おいしい利益をもたらすものであって、結果的には、おいしいリスクのとり方になるということである。

金融機関の視点では、利益は、常に、おいしいのだが、顧客の視点では、その背後にあるべき価値は、おいしいとは限らない。顧客の視点で、おいしい価値の創造を追求し、まずい価値を排斥することは、とるべきリスクとして、おいしい価値創造のためのリスクを積極的にとり、まずい価値を生む可能性があるリスクを徹底的に排除するような経営につながるはずである。

顧客の視点で構築されたビジネスモデルの個別性を前提とし、顧客との共通価値の創造を頂点において、そのための能動的なリスクテイクのあり方を統制するものとして、リスクアペタイトフレームワークはあるべきなのである。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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