速報解説:選挙戦略から見たトランプ大統領の一般教書演説(特別寄稿)

2018年01月31日 14:00

一般教書演説に臨むトランプ大統領(ホワイトハウス公式動画より)

筆者はアゴラにおいて2016年の大統領選挙においてトランプ氏の予備選挙、そして大統領選挙本選挙での勝利を主張し、トランプ氏の選挙時の言動を追ってきました。その際、トランプ氏の言動は極めて政局上の動きに配慮したものであり、タイミングに合わせた柔軟性が高いものであることを指摘しました。トランプ氏のコミュニケーションスタイルの特徴は米国大統領に就任して1年経った今でも変わらず、現在は2018年中間選挙における勝利に向けた内容の焦点を絞った状況となっています。

トランプ大統領の支持率

RealClearPoliticsより

トランプ大統領の支持率は就任当初を除けば、一貫して不支持が支持を上回っており、その不人気ぶりが良く分かる状況となっています。トランプ大統領は選挙時に多大な支援を受けた共和党内保守派に配慮し、2017年中は保守派の理念を実現する諸政策を優先的に実行してきたため、保守的な共和党支持層以外の層が離反した形となりました。これは2018年の選挙イヤー前に党派的な政策を片付ける意図があり、政治的に多少の無理を押し通した結果と言えます。

また、2018年のトランプ大統領の動きを理解するために上記の支持率推移のグラフ上には注目すべきポイントがあります。それはトランプ大統領の支持率が昨年9月に一瞬だけ回復した瞬間があることです。その時の支持率回復はトランプ大統領が債務上限問題で共和党の頭越しに民主党指導部と交渉する超党派的な対応を見せたことが要因となりました。そして、この現象はトランプ大統領の中間選挙の勝利に向けた言動を考えるうえで見過ごすことができないものと考えます。

2018年・中間選挙の投票先

RealClearPoliticsより

2018年の中間選挙における投票先政党について、やはり共和党は民主党に水を開けられた状況となってきました。しかし、昨年末に大きく開いた両党の支持率差は、年明けの政府閉鎖を巡る両党の鍔迫り合いの中で、民主党の無理筋な対応に嫌気が差した有権者らからの支持が低下し、民主党・共和党の支持率差は縮小傾向を見せています。有権者は不法移民を巡る左派のイデオロギー的な問題ではなく、日常的な経済・生活問題を重視していることが数字に表われたと言えます。

したがって、トランプ大統領は一般教書演説で超党派姿勢を示して全体的なイメージを改善し、昨年は先送りしてきた保守派が好まない巨額のインフラ政策による雇用創出・賃金改善を主張する運びとなったと見るべきでしょう。中間選挙に向けた主張としては合理的なものであると理解できます。

共和党側は昨年末のアラバマ州上院補欠選挙からの一連の流れの中でオルト・ライトの代表格であるバノン前首席戦略官を切り捨てることに成功し、トランプ大統領の言動の主流派・超党派的な方向性のスムーズな移行お膳立てが整えられてきました。先般のダボス会議における演説での自由貿易やグローバル化への一定の配慮、そして移民問題に対する超党派の対応を促す姿勢もその一環と言えます。

インフラ政策は民主党支持者からの支持を得ることが可能であり、既に大幅に改善している有色人種の雇用や給与を更に改善させることにつながり、民主党の支持基盤を切り崩す形で機能します。特にインナーシティ問題を扱う住宅長官はアフリカ系アメリカ人のベン・カーソン氏であり、トランプ大統領と共和党の選挙キャンペーンの狙いは明白となっています。一方、共和党保守派は本来公共事業に伴う政府支出を嫌いますが、保守層には既に前年に税制改革、最高裁人事、ネット中立性問題などで十分に配慮したために、同層からの支持は今後も固いものと思われます。

ただし、TPPやパリ協定に関するトランプ氏の翻意の可能性はあるものの、依然として貿易相手国に向けた公正な貿易を強調する考え方は維持された状況となっています。たとえば、年明け早々にUSTRは名指しでロシアと中国のWTO加盟後の振る舞いについて批判し、太陽光パネル輸入に対する制裁関税を発令し、更に現在検討されている鉄鋼などに関する追加措置が検討されています。これらは上院の改選州であるラストベルトなどの製造業関係者からの得票を狙ったものです。

北朝鮮の少年とクリスチャンを絡めた意図は?

さらに、一般教書演説の中で北朝鮮の人権状況に対する詳細な言及を行ったこと、特に北朝鮮の少年とクリスチャンに絡めた演説表現は、中東に関する問題と比べて東アジア問題に関心が薄い共和党保守派の関心を同地域に惹きつける役割を果たすものと思われます。年明けにキリスト教迫害を調査する団体であるOpen Doorsが2018年1月に公表した報告でも、北朝鮮は全世界でNo1のキリスト教迫害国として名指しています。昨年の入国禁止の1回目の大統領令の時に少数派の宗教迫害者を優先的に入国させる条項が入っていたことで問題化しましたが、保守派の意向はこのようにターゲットを決めてスッと組み込まれることがあります。

中国との貿易問題で有権者からの経済政策上の点数を稼ぎつつ、北朝鮮と宗教者迫害をレトリックとして絡めることでコア支持者である保守派の支持を繋ぎとめる、1回で2度美味しい対外政策を活用した集票戦略の対象地域として東アジアが選ばれたと言えるでしょう。

最後に、米国の共和党系の選挙関係者にヒヤリングすると、依然として2018年中間選挙について厳しい見通しを示すことが多いものの、筆者はロシアゲートにおける決定的な問題が発生しなければ、最終的には大統領と共和党の支持率は改善し、中間選挙において共和党が上下両院で過半数を維持できる可能性があると予測します。今から中間選挙の勝敗が楽しみになってきました。

トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体
渡瀬裕哉
祥伝社
2017-04-01

 

本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑