男の老人ホーム入居は不屈の覚悟を

2018年02月02日 06:00

体験者が生の声を綴る

奥さんを亡くされた知人が老人ホーム(介護付き)に入居して満一年、しかも米寿(88歳)を迎えました。その体験記に「ホームでの暮らしには不屈の意思を持ち、周到な準備をされてからの入居をお勧めする」とありました。「不屈の意思」とは、なんと大げさなと思いつつ、入居の運命が待っている大量の予備軍のために、この話を紹介します。

各種の老人施設の新聞広告はあふれるほどです。全国展開しているチェーンも多く、すでに最盛期、団塊の世代が後期高齢者になる2025年以降はもっと増えるでしょう。広告を眺めながら、供給側の宣伝ばかりが大扱いされる一方、入居者自身がどう感じているかの報告が少なく、情報の非対称性は深刻と思っていました。

入居者が80歳、90歳と高齢化していけば、ネットやブログで内情を伝えようとする意欲もなくなってくるでしょう。そうした意味で、88歳の知人がブログに載せた生の声は貴重です。男性ほど甘い考えを捨ててこいと、叫んでいるのです。

高齢男性は女性に比べて、老人施設の入居になかなかなじめず、後悔する方が多いという話をあちこちで聞きますので、「やはりそうか」と思いました。知人は日本を代表する大手電機メーカーの役員を務め、現役時代に鍛えた観察眼は今も、衰えていません。

同じレベルの話相手がいない

現役時代に責任を持たされ、大きな仕事をしたほど、ホームでの生活は苦痛になるようです。まず、話相手になる人が極めて少ないのです。自己資金で購入したとはいえ、共同生活が基本ですから、人間関係をどう作るかに神経を遣うことなります。

「入居者(現在40数人)の多数は女性です。平均寿命からいっても、そうなります。多くの女性は夫から解放され、舅姑の面倒も必要なく、明るく伸び伸びと毎日を送っている」。対照的なのが男性です。会社生活が長かった人ほど、経済、政治、社会問題などに関心を持ち、そうした話なら飽きずに続けられるのに、それがかなわないのです。

たまに高齢男性がいたとしても、「難聴、脳梗塞の後遺症などがあり、まともに会話を交わせません」。手持ち無沙汰の長い一日をどう過ごすか。贅沢というより、深刻な悩みです。「70歳を過ぎたら、1人で過ごせる趣味をいくつか持ち、いづれは老人ホームに入る準備をしておくべきです。従来の延長線上で考えてはいけない」。

「3食、昼寝付きで、至れり尽くせり。それが災いして、ずっといたら、ボケるのも早いだろう。むしろそれを入れてソロバンをはじいている。ボケれば面倒はかからなくなる。4,5年もすれば入居者は入れ替わるという経済計算を運営側はしているようだ」。

「自分の意思がはっきりしている人は、運営体制、日常生活について施設側に不平不満をいう。90歳を超えた痴ほうの入居者がいる。不平不満を言わず、日々、好日。施設にとってはこういう人が歓迎なのだろう」。

階段を昇れなくなる人も

バリアフリーも良し悪しのようですね。「そのうちに筋力が弱って階段を昇れなくなる。スポーツジム通いの習性をつけていたほうがよい」。

知人の観察力はなかなかです。「独りで黙々を食事をする女性がいる。お近づきになろうとしたのか、ある男性が声をかけた。庭の空気でも一緒に吸いませんかと。そうすると、平手打ちをされた」。男に騙されたことがあり、男嫌いの女性だったそうです。

騙されたといえば、「子供に騙されて入居したと、大騒ぎになった例がある」そうです。親を施設に入れれば、子供たちは生活を邪魔されなくて済むとか、親は安泰とかと思う。それが必ずしも、親の気持ちと一致しないということです。

苦労は尽きません。「事業に成功したカネ持ちが、夫婦で入居しています。夕食時には毎日のように、ブランド物の衣装で身を固めて現れる。夫人は多弁、話があちこちに飛び、何を言いたいのかわからない」。困りましたね。

施設やサービスのレベル、運営体制の良し悪しよりも、入居者の同士の人間関係の作り方、1人ぼっちの時間の過ごし方が深刻な問題のようですね。知人は自宅をそのままにしてあり、時々、休養のために自宅に泊まり、気疲れを癒すのだそうです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2018年2月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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