【映画評】THE PROMISE 君への誓い

渡 まち子

1914年のトルコ南部。オスマン帝国の村出身のアルメニア人青年ミカエルは、医学を学ぶために首都コンスタンチノープル(現イスタンブール)の大学に入学する。彼はフランスから帰郷したアルメニア人の美しい女性アナと心を通わせるが、アナはアメリカ人ジャーナリストのクリスという恋人がいた。やがて第1次世界大戦が勃発しトルコが参戦すると、アルメニア人への不当な弾圧が始まり、ミカエルも問答無用で徴兵され強制労働を強いられる。ミカエルは、なんとか脱走を図り故郷へ戻るが…。

(C)2016THE PROMISE PRODUCCIONES AIE-SURVIVAL PICUTRES,LLC.ALL RIGHTS RESERVED.

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20世紀初頭にオスマン帝国が行ったアルメニア人大虐殺・追放事件を、運命に翻弄される3人の男女の姿を通して描く社会派ドラマ「THE PROMISE 君への誓い」。ナチス・ドイツによるホロコーストの約20年も前に起こったこのジェノサイドでは、150万の尊い命が奪われた。事件については、アルメニア系カナダ人のアトム・エゴヤン監督の「アララトの聖母」やトルコ系ドイツ人のファティ・アキン監督の「消えた声が、その名を呼ぶ」などで描かれている。また本作の劇中にチラリと登場する、修道士で作曲家コミタスの生涯を描いた映像詩の映画「コミタス」(ドン・アスカリアン監督)もある。だが、一般的にはあまり知られていないこの事件の全容を、正面から詳細に分かりやすく、有名スターを多く起用して描いたという点では本作が初だろう。ミカエルとアナ、クリスの三角関係のメロドラマは、決して物語を通俗化していない。時代と運命に翻弄されながら生き抜こうと奮闘する姿からは、悲しみだけではなく、人間が持つ生命力を感じさせる。

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国家の都合で、ひとつの民族を、理不尽に抹殺しようとした歴史は、無慈悲な暴力そのもので、言葉を失ってしまう。知られざる歴史の悲劇に光を当てることは映画の使命のひとつだ。地味で暗い内容ながら、各国のスター俳優が集っているのも、そんなメッセージに賛同してのことだろう。「ホテル・ルワンダ」のテリー・ジョージ監督は、実在の人物をからめて虐殺事件の真実を描きながら、同時に民族や国境を超えた友情や愛情が存在したことを描くのも忘れていない。今もトルコ政府が事件を公式には認めていないことから、現地での撮影許可が下りず、映画は、3つの国約22ヶ所をめぐってロケを行うなどの逆境を乗り越えて作られたそうだ。想像を絶する体験から時に復讐の思いに駆られるミカエルに、アナが言う「生き残ることこそが復讐なのよ」との言葉があまりにも重かった。
【65点】
(原題「THE PROMISE」)
(スペイン・米/テリー・ジョージ監督/オスカー・アイザック、シャルロット・ル・ボン、クリスチャン・ベイル、他)
(歴史秘話度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2018年2月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。