中国の覇権が欧州まで及んできた

2018年02月05日 11:30

ドイツのシンクタンク、メルカートア中国問題研究所(Mercator Institute for China Studies )とベルリンのグローバル・パブリック政策研究所(GPPi)は5日、欧州での中国の影響に関する最新報告書を発表するが、それに先立ち、独週刊誌シュピーゲル(電子版)は3日、そのさわり部分を紹介した。主要テーマは欧州で中国の影響がここ数年急速に拡大してきたことだ。

▲シルクロード経済圏構想「一帯一路」の地図(ウィキぺディアから )

▲シルクロード経済圏構想「一帯一路」の地図(ウィキぺディアから )

同報告書によれば、欧州でのロシアの影響はフェイクニュース止まりだが、中国の場合、急速に発展する国民経済を背景に欧州政治の意思決定機関に直接食い込んできたという。報告書は「中国は欧州の戸を叩くだけではなく、既に入り、欧州連盟(EU)の政策決定を操作してきた」という。この場合、中国企業のドイツの先端技術の取得といった経済スパイ、知的所有権の侵害問題ではない。政治的影響だ。

中国の習近平総書記(国家主席)は昨年秋の共産党大会で権力基盤を一層強化し、シルクロード経済圏構想「一帯一路」などで覇権主義的な動きを強めてきた。そして欧州ではその政策決定を操作するまでにその影響力を拡大してきたが、欧州の政治家たちはそれにまだ気が付いていないという。
報告書作成者の1人、クリスティン・シー・クッファー(Kristin Shi-Kupfer)女史は、「ロシアより中国の影響を深刻に受け取るべきだ」と指摘する。同女史によると、EU内で中国の活動を支援している加盟国はギリシャとハンガリーだという。中国は両国で積極的に投資を行っている。

実例を挙げてみる。ハンガリーは2017年3月、北京で拘束された人権弁護士への虐待に抗議するEUの書簡に署名を拒否している。同年6月には、ギリシャは国連人権理事会での中国の人権蹂躙を訴える共同表明をボイコットした。また、メルケル独首相は昨年6月、欧州の先端技術関連企業への中国側の投資を警戒し、規制強化を明記した新しい投資規約を作成しようとしたが、ギリシャとチェコが反対した。その結果、薄められた内容に終わった。ちなみに、中国の「美的集団」は2016年、ドイツ・アウグスブルクで1898年に創設された産業用ロボットメーカー、クーカ社(Kuka)を買収して話題を呼んだことがある。

中国の影響力の背景には、もちろん、急速に発展する国民経済がある。米国に次ぐ世界第2の経済大国・中国の昨年の国内総生産(GDP)は6・9%だ、EUの経済大国ドイツは2・2%だった。中国はドイツの3倍の伸びを示したわけだ。中国の国民経済は今年も同じ程度の発展が見込まれている。中国経済は文字通り、世界経済の牽引と受け取られているわけだ。

中欧のチェコで今月27日、大統領選の決選投票が行われ、現職のミロシュ・ゼマン大統領(73)が再選された。対抗候補者は前チェコ科学アカデミー総裁のイジ―・ドラホシュ氏(68)だった。ゼマン氏は政治経験は豊富だが、ドラホシュ氏は学者出身で、具体的な政治経験や政党内の権力争いといったことを体験していない。大統領選の結果はその差が出た、という分析が報じられたが、そうではないだろう。ゼマン氏はロシア、中国寄りの政治家であり、ドラホシュ氏は親欧州路線を主張してきた。選挙結果は、チェコ国民が前者を支持したことを物語っているわけだ。

ゼマン氏だけではない。中欧・東欧諸国の中にはロシアや中国よりの路線を明確にする政治家が増えてきた。今年4月に総選挙が行われるハンガリーのオルバン首相は反欧州、親ロシア・中国を鮮明にしている。有権者の支持が得やすいという読みがあるわけだ。ウクライナのクリミア半島併合で欧州の制裁を受けるロシアのプーチン大統領もロシア経済の活路を中国にあると判断、急速に北京に接近している。

中国の経済力の恩恵を得たいために、遠い北京まで外遊する欧州の政治家は多い。最近では、EU離脱を決定した英国のメイ首相が今月1日、訪中し、中国との間で巨額の投資協定(総額100億ユーロ)を締結している。中国はメイ英首相から中国が主導する「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)と新しい貿易ルート「一帯一路」プロジェクトの支持を勝ち取っている。

このコラムで、「中国共産党政権の情報工作は今、欧米エリート大学内まで進出し、中国寄りの知識人を輩出するため多くの人材と豊かな資金を投入している。その規模は欧米諸国の想像をはるかに超えているのだ」(「中国が欧米エリート大学に“政治圧力”」2017年8月26日参考)と指摘したが、今回の最新中国研究報告書は更に一歩踏み込み、中国が欧州の中核に深く踏み込み、その意思決定に大きな影響を及ぼしていると警告を発しているわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年2月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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