和解案の作り方と勧告の方法について

ドラマなどを観ていると、予想通りの展開で落ち着くケースが多々あります。

「水戸黄門」などはその典型例で、最後に必ず葵の印籠が出てみんながご老公の前で土下座をします。

毎度毎度同じエンディングなのに、よくもこれだけ長寿番組になったものだと、私は疑問に思ったことがありました(今は放映されていませんが、かなりのロングラン番組でした)。

旅をしているご隠居が最後は「先の副将軍水戸光圀公」になって円満に終了するということは、視聴者の誰もが知っていることです。にも関わらず、多くの視聴者が熱心に観続けた理由は何なのでしょう?

おそらく、最後に葵の印籠が出てきて黄門様が正体を明かして皆が触れ伏すというエンディングが「座りのいい」落としどころだからではないでしょうか?

逆に、「ご老公の名をかたる不届きものを成敗しろ!」と悪代官が命じて、もう一戦ということなると、後味が悪くなります。

正体を明かす前に、助さんと角さんたちが必ず一戦まみえていますから。

「とりえあず戦って懲らしめる」→「“助さん角さんもういいでしょう”で止める」→「葵の印籠を出す」→「皆が土下座する」というプロセスが重要なのです。

これは、訴訟上の対立当事者を和解に導く時も同じです。

まずは「座りのいい」解決策を考える必要があります。双方の利害もさることながら感情的に収まる案である必要があります。
金銭的に得をしても感情的に納得できない和解案を受け入れる当事者はまずいません。

次に、和解に導くプロセスが重要になります。

よく裁判官は、双方当事者を別々に呼んで意見を聴取して和解案を提示しますが、私が三重県労働委員会の公益委員をやっていた時は、双方臨席の上で「私が熟考した上での和解案です」と双方に提示していました。

別々に聴取すると、和解のプロセスに疑問を持つ当事者が多数いるからです。

中には、「着手金くらいは出してもらわないと当事者を説得しない」とゴネる弁護士がいたり、弱そうな当事者を脅して無理やり和解をさせようとする裁判官も、現実にいるのです。

プロセスを透明化させて、両当事者にとって「座りのいい」和解案が提示できた時は極めて短時間で和解成立となり、後刻遺恨を残すこともありません。

もちろんそのような事案ばかりではありませんが、「知らないところでコソコソやっているんじゃないだろうか」と疑われるような方法は、できれば避けた方がいいというのが私の考えです。

説得の戦略 交渉心理学入門 (ディスカヴァー携書)
荘司 雅彦
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2017-06-22

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年2月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。