大王製紙・井川元会長の事例でみるギャンブル依存症(上)

田中 紀子

少し古い話題になってしまいましたが1月31日に、テレビ東京「じっくり聞いタロウ」という番組に、元大王製紙の会長さんでいらした、井川意高氏が出演され、ご自身がカジノで106億円を使った経験を赤裸々に語っておられました。

これがですね~、典型的なギャンブル依存症の進行具合でですね、
実に示唆にとんだ番組で「なるほどなぁ~」と思ったので、私なりの解説をしたいと思います。

まずですね、井川さんが最初にカジノに行ったのは、家族旅行を兼ねて3泊4日で行ったオーストラリアだったそうなんですね。ここで100万円が2000万円になったそうです。

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でも、ここから10年くらいの間は、年に1回位のペースでカジノに行くくらいで、カジノとの付き合いを楽しんでおられるんですね。

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ここが一つのKey Pointで、素人はそして本人も往々にして、「ビギナーズラックが忘れられなくて依存症になった」と言うんですけど、絶対にそんな単純なものじゃない!と思っています。

松本先生のご講演を聞いた時に、はじめて薬物を使った人の多くが「こんなもんか・・・という拍子抜けの体験をしている」とおっしゃっていて、やっぱり!と思いましたが、たかが1回くらいギャンブルやったばかりの頃に大勝を経験したからといって、
それで一気にのめり込んでしまうほど、ギャンブラーは世間知らずじゃありません。

「これがビギナーズラックかぁ。でもこんなの続くもんじゃないよね。」
と理性的な判断を、もちろん下しているんですよね。

私は、ギャンブルでビギナーズラックと呼べる大勝の経験はないですが、往年の競馬ファンなら誰でも知ってる、とんでもレースをとってるんです。強いて言えば、これが私のビギナーズラックでしょうか。

それは、1991年の有馬記念。
一番人気メジロマックイーンが最後の直線で4番手からの猛攻を見せる中、内からするすると伸びてきた、全く人気のない(14番人気ブービー)ダイユウサクが逃げ切り、アナウンサーも思わず「これはびっくりダイユウサク!」と叫んでしまった、ダイユウサク&メジロマックイ-ンを、ただ単に1と8という数字が好き!という理由で馬連7600円をとってしまったんです。

でももちろんその時は競馬なんか全然興味のない普通のOLだったので、確か1000円しか買っておらず、それが76000円になってラッキーと思い、その金をひっつかんで、赤倉にスキーに行ったことを覚えてます。

みんなに「ビギナーズラック!」と言われましたし、私自身超興奮しましたけど、でもその後も全く競馬にハマることなどありませんでした。

しかもその翌年でしたか?またまた人に誘われ、ライスシャワー&ミホノブルボンの菊花賞もとったんですけど、でもぜ~んぜん、それっきりでギャンブル依存症を発症するまで競馬など全くやりませんでした。「たまたま偶然だよね」としっかり思ってました。

当時の冷静さに比べ、今の方がこれ書いているだけで、よっぽどドキドキします。
ギャンブル依存症恐るべし!(笑)

ギャンブル依存症を語る時、多くの人がこのビギナーズラックの経験を語ります。
一般の人がギャンブル依存症を理解する時に、そして時には当事者や、あんまり臨床経験のないお医者さんまでもが、このビギナーズラックと依存症の関係を大きく紐づけています。

単純にこう考えることが脳の中で落とし所があるんでしょうね、きっと。

でも私は、絶対にこんな一発屋で重症な依存症になったりしない!と思っています。

もちろん、そこから毎日のようにギャンブルをやっていった人もいるでしょう。
でも、それだけでもギャンブル依存症は発症しないか、発症したとしても、どこかの時点で自然治癒したり、我々からみたら比較的軽度な人で済むはずです。

では、我々や、そして我々依存症者の中でも、
King of ギャンブル依存症とも言える、井川さんのような重症な依存症に陥る人がいるのか?

それはもうひとえに「イネーブラー」と言われる、ギャンブラーの借金の手助けをする、もしくは巻き込まれた人の存在があるからです。

このイネーブラーがどんくらいのイネーブリング加減か?
これがギャンブル依存症の重症度に大きな影響があると思います。
(但し、他の重複障害がない場合)

イネーブラーとは「可能にする人」という意味で、まさに不可能を可能に変えちゃった人達なんだよなぁと、今ならものすごくよく分かります。

そして井川さんにはそのお立場や身分から、このイネーブラーが沢山いた!
ちょっと長くなっちゃったので、この続きはまた次回解説したいと思います。


編集部より:この記事は、一般社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表、田中紀子氏のブログ「in a family way」の2018年2月12日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「in a family way」をご覧ください。