福島の風評被害から逃げる人々

2018年02月16日 11:30

福島第一原発事故から来月で7年になるが、国連科学委員会を初め多くの調査で、原発事故による放射線障害は出ないという結論が出た。これで事故の被害について科学的には決着がついたが、いまだに根強く残っているのが「風評被害」である。

これは心理的な被害だから、科学的な方法でなくすことはできない。その代表が「トリチウム水」である。福島第一の貯水タンクは1000基、貯水量は100万トンに達するが、海洋放出ができない。そこに残るトリチウム(三重水素)の風評被害を人々が恐れているからだ。

原発に貯まる膨大な「トリチウム水」

福島第一では毎日5000人の作業員が廃炉の作業をしているが、ほとんどが敷地内の水をくみ上げて貯水タンクに入れる作業だ。そこには微量の放射性物質が含まれているが、大部分は濾過装置で除去でき、残るのがトリチウムである。

トリチウムは水素の放射性同位体で微量の放射線を出すが、すぐ減衰するので人体に影響はない。世界では海に流すのが普通で、日本でも他の原発では基準値以下に薄めて流している。福島第一でもそうすればいいのだが、地元の漁協が反対している。それは魚が汚染されるからではなく、「福島の魚は汚染されているという風評被害」が理由である。

原子力規制委員会の更田豊志委員長は、1月に地元の市町村長と会談して「意思決定をしなければならない時期に来ている」と述べたが、福島県の内堀雅雄知事が「福島は依然として風評問題に直面している」と反発した。

福島事故の放射線による科学的な被害はなかったので、事故の被害はほとんど風評被害であり、それを生み出したのはマスコミである。最近は彼らも「汚染水」といわないで「トリチウム水」というようになったが、「海に流すべきだ」とはいわない。

奇妙なのは「福島の魚は危険だ」という人も「海洋放出は違法だ」という人もいないことだ。「トリチウムの海洋放出が危険ではない」ということには関係者の合意があるのに、誰もが風評被害という言葉で責任を逃れているのだ。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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