ブラック企業にありがちなPR表現が決定的にダメな理由

尾藤 克之

名詞を修飾する形容詞は、便利な言葉ですが、意味がわかるようなわからないような、ぼんやりした文章になることもあります。たとえば次のような文章です。

ブラック企業にありがちなPR表現

○私の上司は魅力的な人です。
○風通しのよい組織です。
○アットホームな会社です。

人材採用のホームページや会社説明のパンフレットなどで見かける例ですが、このような文章に読む相手を惹きつける吸引力はあるでしょうか?

学生からすると、「よい上司です」、「風通しのよい会社です」と言われても、何がよいのか、どんなふうに風通しがよいのか、まったくイメージできません。また、アットホームであることを理由に、プライベートまで介入してくる会社があります。こうなると、アットホームではなく公私混同です。

○学歴不問!未経験者歓迎です。
○少数精鋭です。

ありがちなフレーズですが、応募条件が緩すぎる会社は、労働者をただの消耗品と考えているおそれもあります。人を採用する余力がなく、少人数に過重労働を強いる可能性も否定できません。検証する材料やリアリティがないので、エントリーにもつながらないでしょう。ではこの場合、どのような情報を使うべきしょうか。

私の経験上、有効なのは具体的な数値です。たとえば、「年間有給消化率80%」「高校卒の管理職比率が60%」「賞与平均は月給10カ月分」などの、事実を数値化して、それを根拠に魅力的な会社だとアピールするのです。魅力的な根拠を提示し、具体的にイメージさせることができれば、応募者の心を動かすことができるでしょう。

この手法はさまざまなケースで使えます。たとえば、「暑い」「うれしい」「楽しい」。これもそのまま使ったのでは、芸がありません。この場合は、形容詞だけではなく、どういう理由でうれしい、楽しいのかを数字や慣用句を使って言いあらわすのです。それだけで文章に厚みが出ますし、表現も豊かになります。

○今日は暑い。
→ 今日は蒸し風呂のような暑さだ。
→ 今日は気温35度を超え、まるで蒸し風呂のようだ。

○会えてうれしいです。
→ 10年ぶりに会えるなんて、昨夜は楽しみで寝つけませんでした。
→ 今年になって一番と思えるほど楽しい時間でした。

どうですか?ほんの少し、言葉を加えるだけで、味気ない文章も具体的でイメージしやすい表現に変わりますね。

避けたい副詞の乱発

副詞は形容詞と同じく、用言を修飾する言葉です。形容詞が主に名詞を修飾するのに対して、副詞は形容詞や動詞を修飾します。どんな副詞があるのか、見てみましょう。

○動作、作用がどのような状態、様子かをあらわすもの
しばらく、ゆっくり、すぐ、ふと、いきなり、ときどき、しっかり

○物ごとの程度をあらわすもの
とても、かなり、少し、もっと、ずいぶん、はなはだ、ずいぶん

この他にも、推量をあらわす「おそらく」「たぶん」、仮定をあらわす「もし」「たとえ」、たとえをあらわす「まるで」「ちょうど」などがあります。さまざまなシーンに使える副詞ですが、多用すると逆に曖昧な印象を与え、新鮮味がなくなります。

<例文>
ここでしばらく待っていると、ずいぶん経ったころでしょうか。彼らがゆっくりとやって来ました。ちょうど暗くなってきたころだと思います。あまりにゆっくりだったので、私はめっきり不安になりました。

ここまで乱発すると、逆に怪しい文章になってしまいます。修正してみます。

<修正文>
ここでしばらく待っていると、30分以上経ったころでしょうか。彼らはやって来ました。遅刻を気にしていない様子で、のろのろと話しながらやって来るのです。時間はもう夕方近くで、暗くなってきたころです。私はどうなることかと、不安になりました。

数字を入れたり、情景を具体的に描写したりすることで、シーンを描くことができます。形容詞、副詞は多用せず、効果的に使うことで力を発揮すると覚えておきたいものです。

参考書籍
あなたの文章が劇的に変わる5つの方法』(三笠書房)

尾藤克之
コラムニスト