バロンズ:インフレ加速で、消費者の所得押し上げ効果帳消し?

2018年02月19日 06:00

バロンズ誌、今回のカバーはゼネラル・エレクトリック(GE)を掲げる。かつては米企業の代表格としてその名を欲しいままにしていたが、2017年10〜12月期の決算では98億2,600万ドルの赤字に転落、配当を50%引き下げた。また保険事業絡みで62億ドルの費用を計上した後、米証券取引委員会(SEC)の調査を受けているとも発表。結果、株価は1年間で51%も下落した。時価総額は2000年の6,000億ドルから、1,300億ドルまで縮小している。しかし、足元では株価収益率(PER)が15倍と割安感が生じ、配当利回りも3.2%とS&P500構成企業に引けを取らず、投資家から新たな注目を集めているところだ。今後、GEの株価は上昇に転じるのか、詳細は本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測する名物コラム、アップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週はインフレに注目する。抄訳は、以下の通り。

インフレの亡霊、再登場—The Ghost of Inflation Reappears.

B. B. キングの曲”インフレーション・ブルース”には、”物の値段は上がってばかりなのに、俺の給料は変わらない。だから俺は歌うんだ、このインフレーション・ブルースを”との歌詞がある。ウォール・ストリートでも、同じような声が聞かれるのではないだろうか。ただし、彼らは米連邦公開市場委員会(FOMC)がもたらした過剰流動性の終焉に溜息をつく程度で、メインストリートでは物価上昇が賃上げ分を相殺する嘆きが広がるに違いない。

消費者物価指数(CPI)は1月に前月比0.5%上昇し、食品と燃料を除いたコアCPIも0.3%上昇し、共に市場予想の0.3%、0.2%を上回った。四捨五入以前では、CPIは0.54%上昇、コアCPIは0.349%で、それぞれ0.6%、0.4%に乗せるまであと僅かだった。月ごとの変動はさておき、インフレは目標値の2%に近づきつつある。イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)前議長はインフレ低迷にも関わらず、FF金利誘導目標を1.25〜1.50%へ引き上げてきたが、その陰で株高と資産価格の上昇が進行していたものだ。

イエレン氏の後任であるパウエルFRB議長は、前任者が経験したインフレ低迷という混乱に直面しそうにない。足元で米株の変動が大きくなった背景は、米1月雇用統計で平均時給が前年比2.9%へ加速したことにある。CPIの上昇は、物価の短期的なトレンド加速を示唆した。フリー・マーケットのマイケル・ルイス氏によれば、全体のCPIは1月に前年比で2.1%の上昇を示したが、直近3ヵ月間では前期比年率4.4%上昇していた。コアCPIも1月に前年比1.8%上昇のところ、直近での3ヵ月では前期比年率で2.9%の上昇に及んだという。

1月の平均時給は前年比2.9%上昇していたので、インフレを上回るペースを保った。しかし、ここには週当たり労働時間の短縮という問題が隠れており、労働者・非管理職の平均時給は労働時間の短縮で前月比0.1%下落していたも同然だ。JPモルガンのエコノミスト、ダニエル・シルバー氏によれば、これはインフルエンザ蔓延が一因だった可能性がある。

いずれにしても、インフルエンザや季節調整の問題であっても、あるいは1月のCPIがたまたま上振れしたのであっても、循環的な上昇トレンドが迫りつつあることに変わりはない。物価上昇は賃上げを打ち消すばかりでなく、ただでさえ低下しつつある貯蓄率をさらに押し下げてきた

TSロンバードのスティーブン・ブリッツ主席エコノミストによれば、1月CPIの詳細からデフレの兆候が消え、食料や燃料、サービスや家賃といった分野で上昇がみられるという。モノの物価は、輸入品価格の下落、テクノロジー、ベビーブーマー世代の高齢化に伴う支出鈍化などによって、1990年半ばから抑制されてきた。しかし、今はドル安が輸入品の上昇を押し上げ、今年から来年の最終品価格に上乗せされるかねない。テクノロジーで言うなら、携帯電話の価格は2017年に価格競争によって押し下げられたため、2018年は前年比で上昇する可能性がある。

消費者の賃金は、モノの価格が下落していたため家賃とサービス価格の上昇に耐えてきたが、TSロンバードのブリッツ氏に言わせれば「モノの物価が上昇し、家賃が上昇ペースが止まる気配がなければ、家計は一段と苦しくなる」という。

こうした流れを受け、消費者は貯蓄に頼らざるを得ず、貯蓄率は2017年12月に2.4%と2005年末以来の水準まで低下したと言えるが、マクロメイブンズのステファニー・ポンボイ氏いわくこうした状況は今に始まったことではない。生活必需品関連の支出、すなわち食料、エネルギー、住宅、医療費などが過去2年間における家計支出増加分の55%を占めるため、ポンボイ氏によれば足元の貯蓄率低下は「選択によるものではなく、必要から生じた」ものだという。

貯蓄率、減税効果で盛り返すことができるのか、あるいはインフレ加速で低水準で推移するのか。
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(出所:My Big Apple NY)

生活費のうち、債務返済も増加中だ。ポンボイ氏は、債務返済額が2017年7〜9月期に620億ドル増加したと指摘する。利上げが影響したと想定され、2018年の利上げ回数を踏まえれば債務返済額が年末までに750億ドル増加する公算だ。ポンボイ氏は、債務返済額だけで「税制改革法案の経済押し上げ効果にあたる800億〜1,000億ドルを帳消しかねない」と分析する。

トランプ大統領はガソリン税の25セント引き上げを提案したが、ストラテガスのワシントン・チームを率いるダニエル・クリフトン氏いわく「税制改革での所得税減税のうち6割を吹き飛ばす」という。

1月が小売売上高で前月比0.3%減だったのも、即断するのは時期尚早ながら消費者がインフレ上昇の圧力に屈した一例と言えないだろうか。もちろん小売売上高は変動が激しく、しかも修正幅が大きいことを考慮しなければならない。ただ、NY連銀のインフレ見通しは既に3%に達し、インフレ目標値を大きく上回っている。インフレは米株高と共に力強い経済の証左との認識がある一方で、利上げ環境下でのインフレ加速は、雇用統計の増加や税制改革の効果を低減させるだけでなく、購買力を低下させ、経済減速の予兆となりうるだけに、注意が必要だ。


1月のCPIや小売売上高はインフレ加速と個人消費鈍化のサインを点灯させたものの、米株は年初来リターンの下げ幅を巻き戻し、2月8日に調整局面入りしたS&P500も10%台から16日に4.9%安へ半減させました。米株の下落局面は、一旦収束したように見えます。同時に、VIX指数のショートに連動したETNなどが急落した程度で、オプション取引やその他のリスク資産でパニックが波及したわけでもありません。NYのとあるトレーディング・フロアでも、米株安局面で「高利回り債のチームは落ち着いていたものだった」というだけあって、米株安は局地的そのものでした。つまり、強気派も弱気派にとっても、「まだ終わっていない」状況というわけです。少なくとも3月FOMCの利上げ織り込み度は80%台に達する一方で、6月、9月、12月もそれぞれ30〜40%台であることを踏まえると、仮にFedが利上げ加速を示唆する局面があれば、ひと波乱あってもおかしくないのかもしれません。

(カバー写真:Tobias Zils/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年2月18日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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