FAXをバカにする人は、FAXユーザーのパイの大きさを知らない

黒坂 岳央

こんにちは!肥後庵の黒坂です。

日本は世界的に見て、異常なほど“FAX大国”だという指摘を聞いたことがないでしょうか?

アメリカではまるで骨董品であるかのように、ワシントンのスミソニアン博物館でFAXが展示されているのに対し、日本では企業のFAX普及率は97.8%(2006年総務省調査)で、家庭世帯は42.0%(2015年総務省調査)でその普及率の高さからまだまだ現役選手であることが分かります。

「イマドキFAXを使っている人は時代遅れ」「FAXなんて画質悪いし通信費高いしバカみたい」とFAXを下に見ている人も多いのではないでしょうか。確かにプライベートでFAXを使うことは、メールに比べて効率的で利便性の高い通信手段とはいえないかもしれません。FAXは送信料がかかりますし、用紙が必要で、通話中に使えないなど不便な点はいくつもあります。しかし、ことビジネスの場においてはFAXはバカに出来ません。「FAXなんて」といっている人はFAXユーザーのパイの大きさを理解できていないだけだと思うのです。

「FAXなんて捨てろ!」と一括した外国人CFO

昔、私が東京で働いていた外資系企業での話です。当時、私はファイナンス部門の経営改革をする仕事をしていました。メスを入れる事になったのは経費削減。私が打ち出したのは「請求書を郵送するのをやめて、Web請求へ移行できないか?」というプランです。年間で出している請求書の数は数万件、はがき代やその他封筒などの資材、それに携わる人件費などを考えるとかなり削減ができます。

そして調査を進めていくと、請求業務をする上でかなりFAXを使っていることが分かってきました。取引先から「決算の締め作業をしたいから、郵送前に請求書を先にFAXで送って欲しい」というリクエストがあり、請求書をFAX送信しているケースがかなりあったのです。郵送とFAXに関する費用を削減できれば、かなり利益を押し上げることになります。

このプランをプレゼンしたところ、企画を通すことが出来ました。外国人CFOが複数のオフィスの請求部門を視察にいったのですが、真っ先に指摘が入ったのは「FAX」です。本社オフィスには複合機はあっても、FAX専用機は置いていませんでした。ですが、他のオフィスにはFAX専用機が何台も置かれており、月初になると取引先にいち早く請求書を取引先へFAXする人が列をなしていたのです。

それをみたCFOは我慢できなかったようで「今すぐ全てのオフィスからFAX専用機を捨てろ!なんでこんな化石みたいなものを未だに使っているんだ!!」と声を荒げたのです。日本の商慣習として、まだFAXを現役で使っている取引先は多く、FAXがないと困ってしまう相手もいることを伝えたのですが「なぜメールにPDF添付ではダメなのか?」となかなか理解を得らなかったのです。

海外から見ると日本人がいまだにFAXを現役で使っている事に驚きを隠せない、このことを実体験しました。

FAXユーザーのパイの大きさはバカにできない

フルーツギフトで起業をして、東京から熊本に移ってきた私が驚いたのは、東京の企業とは比べ物にならないほど多くの取引先がいまだにFAXをバリバリ現役で使っているということです。電話で「メールアドレスをお持ちですか?」と聞くと「メールは1週間に1回見るかどうかだから、連絡手段はFAXにしてほしい」と返ってきて驚かされたことがあります。田舎で商売を営んでいる人にとっては、FAXはまだまだ現役選手なのです。

私は決してこのことをバカにしているのではありません。むしろ、都会の人が気づいていない大きなビジネスチャンスとすら思っています。特に私が携わっているフルーツのような第一次産業ではそれが顕著です。取引先にものすごい極上メロンを作る生産者さんがいます。地元ではもはやブランドのようになっていて、その人の作るメロンは他のメロンよりも高値がつき、ハズレ無しということでこぞって求める業者が多くあります。その腕前は本物で、何度も表彰されており地元のお客様の中でも「そちらのメロンはあの人の生産したメロンですか?」と聞かれることもあるほどです。

しかし、その生産者さんはWebサイトはおろか、メールアドレスすら持っていません。メロンを仕入れる時はFAX発注です。彼は発注をFAXでしか受け付けていませんから、FAXを使わない人は彼にアクセスが出来ないわけです(そもそも、その生産者さんは知らない人にメロンを売らないのですが)。

また、通信販売で買い物をする人の中にはFAXユーザーはまだまだ多くいます。私が知っているフルーツショップは、顧客の半数以上が60代以上で注文はほとんど電話かFAX、手紙で来るといいます。ネットショップはあるにはあるのですが、そこからはほとんど注文が来ることはなく、大多数がアナログ注文なのです。FAXからの注文でしっかりと売上を立てて生活をしているのですから、FAXに足を向けて眠ることが出来ないわけです。

ローテクに守られるビジネス

もちろん、この状況は永遠には続きません。FAXを使わない年代層が大部分を占めるようになれば、いよいよ日本からFAXがなくなり博物館に置かれる日が来るのかもしれません。ですが、少なくとも現時点ではまだまだFAXというローテクが参入障壁になっているビジネスもあるということです。

どんなに先進的なIT機能をひっさげた企業が現れても、彼らを顧客にすることは決して出来ません。あのEC業界の巨人、Amazonでも取れないパイがFAXユーザーであり、その規模は現時点ではなかなか大きいのです。

そういうわけで私の運営している肥後庵でもFAX注文を廃止せず、今後も継続していきたいと思っています。

黒坂 岳央
フルーツギフトショップ「水菓子 肥後庵」 代表