憲法改正による幼児教育から高校までの無償化を提案する

細野 豪志

前稿では、憲法制定当時の経緯を振り返りながら、26条を改正して教育の充実を進めることを提案した。私は、最も優先されるべきは幼児教育だと考えている。

幼稚園の就園率が分かるのは1948年から。その年、幼稚園に通っていた子どもは7.3%に過ぎなかった。当時、保育所の設置も徐々に進んでいたが、保育児童数は幼稚園を下回っている。幼稚園と保育園を合計しても、約9割の子どもたちは、就学前教育を受けていなかったことになる。ちなみに、私の両親はこの世代に当たるが、田舎育ちで幼稚園は近くに存在しておらず、二人とも就学前教育は受けていない。

幼児教育を巡る環境は激変した。2017年時点で、幼稚園か保育園のいずれかに通っている幼児の割合は、3歳児で91%、4歳児で97%、5歳児で98%となっており、ほとんどの幼児が何らかの就学前教育を受けていることが分かる。気がかりなのは、就学前教育の機会を与えられていない13.8万人の子どもの存在だ。

この13.8万人という数字の中に、地域社会からの孤立、様々な障害、虐待など、多くの問題が潜んでいる可能性がある。市町村には、母子健康法に基づく乳幼児健診などがあるが、未受診者の自宅訪問は自治体の判断に任されている。私は、学校教育法の改正による、幼児教育の義務化を視野に入れるべきだと考えているが、実現には国民の理解が不可欠だ。幼稚園にも保育園にも通っていない幼児については自治体の家庭訪問を義務付け、幼稚園もしくは保育園を斡旋するなど、教育と福祉が一体となった対応を早急に行うべきだ。

ここ数年、子どもの貧困の問題に取り組んできて、この時期が子どもの人生に重大な影響を及ぼすと感じてきた。生涯にわたる人格形成の基礎を培う幼児教育について、憲法で無償化を明記することを提案する。立憲主義に立つならば、憲法を改正することで、教育を受ける権利と政府の責任の範囲を21世紀型へと拡大することを考えるべきだ。

就学前教育の無償化の経済的メリットも大きい。幼児の保護者の経済的状況は、義務教育世帯のそれと比較して一般的に厳しい。教育機関である幼稚園はもちろん、保育についても実質的に教育が行われていることから幅広く無償化し、誰もが安心して子どもを産むことができる社会をつくることは、少子化対策にも効果が期待できる。社会的な問題となっている待機児童の解消についても、最優先で取り組む体制が整う。

また、高校の無償化についても踏み込んだ。既に法律や予算による措置が図られているが、時の政権の意向に左右されないよう憲法上の権利として明記する。義務教育とはされていない高校を無償化するにあたっては、進学しない若者との公平性に最大限の配慮が必要になる。諸外国を見ると、義務教育と無償化の範囲が異なる例は少なくない。

例えばプロ棋士や料理人など、高校に進学しないという選択は残しつつ、教育を受ける意思がありながら、経済的な事情などで進学を断念する若者が出ないように、授業料以外の面でも就学支援を充実する必要がある。

大学や専門学校などの高等教育の無償化については、進学せずに社会に出て働くことを積極的に選択している若者が数多く存在し、そうした若者を求める企業も幅広く存在することから、憲法で無償化を規定することはしなかった。ここ数年、生活保護家庭や児童養護施設の子どもの進学環境は若干の改善を見たが、今も経済格差が進学の格差につながっている状況に変わりはない。高等教育については、能力及び個性に応じて、すべての国民に利用する機会が確保されることを憲法に明記する。

幼児教育から中等教育までの無償化と、高等教育の充実には相当程度の財政出動が伴うが、子どもたちや、これから生まれてくる未来の世代に対する責任を全うするためには、必要なものだと考えている。シルバー民主主義と言われる時代だからこそ、恒久的な対応を担保する憲法改正に取り組む意味は大きい。

ただし、教育の充実が、もっぱら財政赤字の増加、すなわち将来世代の負担によるものになるとしたら、その責任を全うしたことにはならない。我々は財政健全化条項の導入を教育の充実と併せて提案する。

2月27日の憲法調査会で承認された希望の党の憲法改正条文案を示す。

第二十六条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力及び個性に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有し、社会的身分又は経済的地位によつて差別されない。

② 国は、教育が人格の形成及び主権者として必要とされる資質の涵養に欠くことのできないものであることに鑑み、教育環境の整備に努めなければならない。

③ すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子どもにすべての国民にとつて共通に必要とされる一般的かつ基礎的な教育を受けさせる義務を負う。

④ 幼児期の教育から初等教育、中等教育に至るまでの公の性質を有する教育は、法律の定めるところにより、無償とする。高等教育については、法律の定めるところにより、能力及び個性に応じて、すべての国民に対してこれを利用する機会が確保されるものとする。

第八十三条

② 国の財政の健全性は、現在及び将来の国民のために、収支の均衡を基本とし、確保されなければならない。

第八十九条 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、これを支出し、又はその利用に供してはならない。


編集部より:この記事は、衆議院議員の細野豪志氏(静岡5区、希望の党)のオフィシャルブログ 2018年2月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は細野豪志オフィシャルブログをご覧ください。