人口減少時代の住宅選びで優先すべき「インスペクション済」

日本の既存住宅(中古住宅)流通シェアは2013年時点で約14.5%である。欧米の既存住宅流通シェアが約70%~90%であることを見れば日本の既存住宅流通シェアはかなりの低水準だと言わざるを得ない。

この様な数字が生み出される主因として、既存住宅市場には「情報の非対称性」が存在すると指摘する声が多い。これは、住宅を供給する側が持つ情報と、住宅を必要とする側が受け取る情報に「格差」があることで所謂レモン市場に例えられる「逆選抜」が発生しているという指摘だ。

このような状態を改善し、既存住宅市場を活性化させる為の施策として、宅建業法の一部を改正し「既存建物取引時の情報提供に関する規定」が本年4月1日より施行される。

この要旨は、既存住宅の売買に際し不動産取引のプロである宅建業者が、専門家によるインスペクション(建物状況調査)の活用を促し、そのインスペクション結果を活用した既存住宅売買瑕疵保険の加入を促進することで、売主・買主が安心して取引ができる市場環境を整備しようとするものだ。

確かに住宅の性能が可視化され、その性能の担保に保険が付与されれば「取引の安全と安心」は増すだろう。既存住宅市場における「情報の非対称性」の改善も期待できる。しかし問題は、この施策で既存住宅の「ニーズ」までが増すかどうかである。

公益社団法人 全国宅地建物取引業協会連合会が行った「2017年 土地・住宅に関する消費者アンケート調査ウェブアンケート調査結果」によると、物件選択時の優先順位は、「物件価格・予算が合致するもの」が70.4%で最も多く、次が「立地の住環境」(51.7%)、「住宅のデザイン・広さ」(45.2%)、「住宅の間取り」(44.2%)の順となっている。これはあくまで優先順位であり、消費者はこれ以外の「駅からの距離」、「住宅の耐震性能」、「子供の学区」等を総合的に勘案し物件選択を行っていくのが一般的だが、この中で「インスペクション済」の優先順位は「1.5%」に留まっている。

日本人は「新築好き」と言われるが、賃貸住宅・分譲住宅問わず、新築住宅には間取や設備、デザイン、建築工法まで含めた、消費者の「今」のスタンダードなニーズが凝縮されている。当然そうでなければその新築住宅は市場の中で競争力を失ってしまうからだ。その新築住宅を選択せず、既存住宅が選択されるためにはインスペクションにより「取引の安全と安心」を確保し、さらに上記の優先順位に見られるような条件の「優位性」をより多く獲得しなければならないのである。

上記の様に、既存住宅が積極的に選択されるための障壁は小さくない。とは言え、政府が目標としているように『少子高齢化が進行して住宅ストック数が世帯数を上回り、空き家の増加も生ずる中、「いいものを作って、きちんと手入れして、長く使う」社会に移行することが重要』であることも間違いない。人口減少時代では「作っては壊す社会」から「ストック型社会」への移行が肝要だろう。

今後、消費者が物件を選択する際に「インスペクション済」の優先順位が少しでも上がることに期待したい。その優先順位が上がることこそ、日本がストック型社会に少し近づくことでもあるのだ。

 

※参考資料 公益社団法人 全国宅地建物取引業協会連合会「土地・住宅に関する消費者アンケート調査」2017.3