【映画評】さよならの朝に約束の花をかざろう

映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』オリジナルサウンドトラック

人里離れた土地に住み、ヒビオルと呼ばれる布に日々の出来事を織り込みながら静かに暮らすイオルフの民。10代半ばで外見の成長が止まり、数百年の寿命を持つ彼らは“別れの一族”と呼ばれている。イオルフの少女マキアは仲間といても孤独を感じながら暮らしていた。そんなある日、イオルフの長寿の血を求めてメザーテ軍が攻め込んでくる。イオルフ一番の美女レイリアは連れ去られ、マキアがひそかに想いを寄せていた少年クリムも行方不明になる。何とか逃げ出したマキアは虚ろな心で森を彷徨ううちに、親を亡くした赤ん坊のエリアルを助けることに。少年から大人へと成長するエリアル、少女のままのマキア。流れる時の中で、二人の絆は変化していくが…。

外見が10代のままの少女と年老いていく少年の深い絆を描くアニメーション「さよならの朝に約束の花をかざろう」。「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」シリーズや「心が叫びたがってるんだ。」で脚本を担当した岡田麿里が初監督に挑んだファンタジーアニメだ。数百年の寿命を持つ一族、彼らの血を狙っての闘い、主人公の長い長い旅路、周囲の人々の人生模様。物語は想像以上の広がりを持っていて、連続ドラマで詳細に描いた方がいいのでは…とさえ思う内容だ。裏を返せば、劇場映画では語りきれず駆け足になってしまっている印象を受ける。

他者が歳をとるのに自分はそのまま、あるいは歳をとるスピードが異なるという不思議な設定は、過去にも「アデライン、100年目の恋」や「ベンジャミン・バトン」で描かれているが、それらの実写作品が異なる時間軸の中での出会いを意識しているのに対し、本作は、別れをテーマにしている。だがその別れの本当の意味は、芳醇な時間を共に過ごした、素晴らしい記憶なのだ。流れゆく時間の中で刻まれた永遠の一瞬。複雑で深淵なテーマながら全体的に柔らかい印象を受けるのは、アニメーションという手法ならではだろう。加えて、本作の透明感のある色彩と美しい光の描写のおかげだ。細部まで作り込まれた丁寧なビジュアルが心に残る美しいアニメーションだ。
【60点】
(原題「さよならの朝に約束の花をかざろう」)
(日本/岡田麿里監督/(声)石見舞菜香、入野自由、茅野愛衣、他)
(透明感度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2018年3月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。