バロンズ:貿易戦争は、米国第一につながらず

2018年03月07日 10:00

バロンズ誌、今週のカバーは住宅市場を掲げる。米連邦公開市場委員会(FOMC)が利上げを継続するものの、労働市場は活気づき、税制改革法案の成立もあって住宅市場は2018年も堅調に拡大するとの見方が根強い。新規住宅販売件数が2017年に前年比10%増の61.5万件だったものの、キャピタル・エコノミクスの不動産担当エコノミストは今年も10%増を予想する。今年の住宅市場が気になる方々は、本誌で詳細をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォール・ストリート、今週のカバーはトランプ大統領が仕掛けつつある貿易戦争に焦点を当てる。抄訳は、以下の通り。

貿易戦争の最大の敗者—The Trade War’s Biggest Losers.

”オッカムの剃刀”の教えでは、簡潔な説明こそ最上とされる。しかし、全てを説明できるわけではない。トランプ大統領が3月1日、鉄鋼に25%、アルミ10%の輸入関税を賦課すると発表したことも同様で、米株高を得意げに語っていたはずの大統領は自身の言葉で米株市場に衝撃をもたらした。ダウは結局、3月2日までの週に3%安を迎えた。

トランプ大統領の決断に対し、ゴールドマン・サックスのエコノミストは「経済的な議論に立ったものではなく、国家の安全保障の見地から通商上の制限を課すものだ」と分析する。しかし、それより米株を下落せしめた理由は「貿易相手国が同様の措置を取り、最終的に世界貿易機関(WTO)が定めるような国際規定を弱めてしまう」ことが懸念されたのだろう。つまり、市場は貿易戦争を念頭に入れたと考えられる。

国家安全保障上の観点から、トランプ大統領は「鉄鋼産業は酷い状況にあり、鉄鋼なくして国なしだ」と主張する。米国が鉄鋼を輸入する先はカナダで全体の16%、メキシコは9%を占め、まさに現在、再交渉中の北米自由貿易協定(NAFTA)加盟国が対象となり、関税賦課で交渉は破綻しかねない。

問題は、なぜトランプ大統領が今、輸入関税を推進しようとしているかだ。アナリストはあくまで選挙公約に基づいていると指摘、カウエンのクリス・クルーガー氏は「グローバリストVS米国第一の戦いに、真の妥協点はない」と分析する。

キャピタル・アルファのジェームズ・ルシアー氏は、トランプ大統領の苛立ちに注目する。ルシア—氏いわく、大統領はグローバリスト達、すなわちゲイリー・コーン国家経済会議(NEC)議長、H.R. マクマスター大統領首席補佐官、レックス・ティラーソン国務長官、そしてジェームズ・マティス国防長官などに関税賦課を止められてきたという。しかし、「ホワイトハウスの混沌」がウィルバー・ロス商務長官、ピーター・ナバロ通商製造業政策局長(政権発足時は国家通商会議議長)のような保護主義者の台頭を可能にさせ、関税賦課の発表に至った。また、ルシアー氏によれば、大統領は恐らく米株安に神経質になっており、関税賦課を発表しないよう助言したウォール・ストリート出身スタッフの意見も聞き入れなかった公算が大きい。

RDQエコノミクスのジョン・ライディング氏とコンラッド・デクアドロス氏にしてみれば、関税賦課は「実に愚かな発想」である。両氏いわく「鉄鋼とアルミの買い手は鉄鋼とアルミの価格上昇と潜在的な報復によって不利益を被る」と考えられるためで、例えば鉄鋼とアルミを使用する側の就労者数650万人に対し、鉄鋼とアルミの生産側の就労者数は20.3万人に過ぎない。

実際にブッシュ政権(子)で2002年、鉄鋼に最大30%の追加関税が賦課されたケースを思い出してみよう。鉄鋼製品を消費する産業で組織されたConsuming Industries Trade Action Coalitionの調査では当時、追加関税により20万件の雇用が失われた

ロス商務長官は関税賦課を説明するためCNBCに出演し、キャンベル・スープを例に挙げ一缶につき2.6セント分の鉄を使用しているため、25%の追加関税賦課を含めれば缶のコストは1.99ドルになると指摘した。ロス商務長官が1日何杯スープを飲むのか定かではないが、キャンベル・スープの株価は2016年7月につけた最高値の3分の1へ下落してしまったのは、缶の費用負担が意識されてしまったからかもしれない。

ロス商務長官、キャンベル・スープの缶を片手に関税賦課の影響は限定的と説明。
ross
(出訴:CNBC

トランプ大統領は米国の貿易赤字拡大への怒りから関税賦課を推進しているようだが、米国は今、海外資本に頼らざるを得ない皮肉な環境にある。JPモルガンのマイケル・フェローリ氏とダニエル・シルバー氏によれば、財政赤字は2018年にGDP比5.4%と、2017年の3.4%を上回る見通しだ。経常赤字はGDP比で2019年に3.9%と、2017年の2.3%から拡大すると見込む。

過去をひも解くと双子の赤字に対しドルの変動に方向性は乏しく、レーガン政権時代はドル高を招き、ブッシュ政権(子)では、赤字拡大がドル安につながった。BCAリサーチによれば、両者の違いは実質金利にある。1980年代は実質金利が高水準にあり、世界中から資本流入を呼び込んだ。逆にブッシュ政権では、実質金利の低下が資金の流入先としての魅了を減退させた。今回はどうなるのか。BCAリサーチの分析では、投資家が双子の赤字拡大がインフレを引き起こすなら、実質の長期金利は低下し、ドル安を促す見通しだ。一方で、Fedが積極的な利上げに踏み切ると予想するなら、実質金利が上昇しドル高につながるという。

いずれにしても、金利上昇は財政と経常のそれぞれの収支を悪化させるだろう。金利上昇はアンクル・サムに財政赤字を拡大させ、同時に米国債を取得した海外投資家への利払い負担を膨らませ経常赤字を増やす。金利上昇は、決して好ましくない。

もう一つ重要な点として、GDP比の連邦政府の債務残高における違いがある。レーガン政権が税制改革を実施した当時、連邦債務残高のGDP比は30%程度だったが、現状は100%超えまで膨らみ、海外債務はGDP比で40%にのぼる。債務残高だけでなく、誰に借金しているかも問題だ。米国債保有高トップの国と言えば中国で1.18兆ドル、そのシェアは18.8%に及ぶ。仮に中国に対し貿易戦争を仕掛ければ、一体どうなるのだろうか?

足元、米国は赤字補填として米国債ばかりに依存しているわけではない。海外投資家は過去12ヵ月間に米国債をネットで200億ドル取得した程度で、逆に政府機関債を1,351億ドル社債を1,315億ドル購入してきた。米株も1,265億ドル取得しており、言い換えるなら米国の強気相場こそ、最大の輸出品であることを示唆する。

今後も強気相場が続くのかは、パウエルFRB議長率いるFedの利上げ、そして利上げに影響を及ぼす労働市場次第だ。米2月雇用統計は、1月のような過熱した労働市場を表すのか、注目だ。

(カバー写真:IoSonoUnaFotoCamera/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年3月6日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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