NY市郊外で、ルームシェアならぬハウスシェアが普及するワケ

あなたは、全く赤の他人の家族と同じ屋根の下で生活できますか?ニューヨーク州ロングアイランドに住む家族の答えは、イエスです。筆者が2月半ばに米国出張し、大手銀行の従業員から教師までヒアリングしたところ、血縁関係のない家族が生活費を抑制する解決策こそ、共同生活だというではありませんか。しかも二世帯住宅ではなく、玄関をはじめ居間、浴室など完全に分離されていない状態での同居だといいます。ルームシェアならぬ、ハウスシェアとでも呼ぶべき事態です。

住宅価格の高騰が一因で、不動産会社マルティプル・リスティング・サービシズによれば、マンハッタンから電車で約1時間の距離にあるロングアイランドの1月住宅販売価格は、前年比6.0%上昇の50万3,500ドル(約5,400万円)と、過去最高に近い水準でした。全米中古住宅価格の24.05万ドルを、大幅に上回ります。

直近は値上がりペースが鈍化したとはいえ、値ごろ感には程遠い。
li
(出所:Zillow

仮にロングアイランドで頭金を5万ドル差し出し、固定金利で30年の住宅ローンを組むならば、返済額は月に約2,300ドル(約24.6万円)也。しかも2012~16年のNY市の世帯所得・中央値は5万5,191ドルと、全米の5万5,233ドルを小幅ながら下回る状況ですから、庶民の手に到底届く金額ではありません。

NY市並びに近郊での家賃が30年物住宅ローンの返済額相当である点を踏まえれば、一家で住宅を借りることも極めて難しい。そこでマンハッタンで働く一家の主が編み出した苦肉の策こそ、ロングアイランドでの他人との共同生活と言えます。住宅保有者、借り手にとって、財布にやさしい解決策なのでしょう。

NY市内はマンハッタン、ブルックリン、クイーンズの3地区の視点を移すと、家賃は高止まりが続きます。不動産大手ダグラス・エリマンによれば、1月の家賃・中央値が前年比で0.6%下落したとはいえ3,275ドルと、2017年12月につけた過去最高の3,388ドルを下回るとはいえ、その差はたった117ドルです。タイプ別での家賃中央値をみると寝室1部屋のタイプで3,254ドル、寝室2部屋で4,295ドルとあって、子供を持つ一般家庭が支払える水準に遠く及びません。

そこに輪を掛けて、民泊の流れが家賃を押し上げつつあります。マクギル大学がホテル貿易評議会と市民団体の協力を得て、NY市内での民泊大手エアビーアンドビーの活動を2014年9月~17年8月にわたり調査したところ、7,000~1万3,000件の賃貸住宅が民泊に奪われたと分析していました。結果、2018年の家賃を380ドル押し上げると試算しています。この分析が正しければNY市内はここ数年、空前の複合住宅建設ブームに沸くものの、民泊が供給を押し下げていることになります。

なおNY市では、3~4室を有する複合住宅での30日以下の短期貸しは住宅所有者が不在である限り、違法です。民泊が旅行者の宿泊負担を減らす一方で、居住者の家計を圧迫するのであれば、NY当局が規制を強化しかねませんね。

(カバー写真:Troy Tolley/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年3月8日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。