バロンズ:米債、米株ポートフォリオ・ヘッジの役割御免か

2018年03月12日 07:00

バロンズ誌、今週の特集は労働市場を掲げる。金融危機から10年を迎え、労働市場は逼迫しており、企業にとって労働力の確保が困難となっている。労働人口の減少が背景にあり、回復には10年を要するだろう。国勢調査局によれば、2030年以降、人口は労働人口を上回るペースで増加する見通し。ファンドストラットのトム・リー氏によれば、2017〜27年の間に米国は820万人もの労働不足に直面するという。経済のエンジンである労働不足が深刻化すれば、成長鈍化につながること必至だ。今後、米国の労働市場はどうなるのか。詳細は、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週は米株と米債における関係性の変化に焦点を当てる。抄訳は、以下の通り。


まるで遠い昔のようだが、2月2日に公表された米1月雇用統計では、平均時給の前年比伸び率が3%近くに達し、物価と金利の上昇懸念が立ち込めた。米株市場のボラティリティを大いに高め、VIX指数のショートに連動する上場投資証券(ETN)の急落も一段安の要因を与えた。S&P500は2月8日に10%下落、調整局面に入ったものだ。

しかし、3月9日に公表された米2月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比31.3万人増と、市場予想を大幅に上回っただけでなく、2016年7月以来の高水準だった。賃金が上振れせず、インフレと金利の上昇懸念が和らいだため、ウォール街は結果に対しネガティブに反応せず。少なくとも2月は、労働参加率の上昇が雇用増加とマッチしたため、賃上げ加速を防いだと考えられる。

家計調査によれば、80.6万人が労働市場に参入し、78.5万人が就職できたとされる。労働参加率は2月に63.0%と過去の水準から比較すると低水準にとどまるが、1月の62.7%からは改善した。失業率は4.1%で、2000年12月以来の最低を保つ。ただし、2月の平均時給は前年比2.6%の上昇となり、前月の2.8%(2.9%から下方修正)以下にとどまった。

どの数字を引き出そうが、米連邦公開市場委員会(FOMC)の利上げが年4回、あるいは5回を連想させた米1月雇用統計と違って、米2月雇用統計は利上げの道筋を大きく変更させるものではなかった。米2月雇用統計後、FF先物市場でみた利上げ織り込み度は3月20〜21日開催のFOMCで100%、年内2回目の利上げを行う可能性が高いとされる6月12〜13日開催のFOMCで77.1%3回目の公算が大きい9月25〜26日開催のFOMCでも、53.4%12月18〜19日開催のFOMCでは72%となる。ただし、年4回の利上げ見通しは、34.4%に過ぎない。

パウエルFRB議長は、上院銀行委員会の議会証言で2月28日に「賃金が決定的に上昇する強い証拠を確認していない」と証言し、米2月雇用統計と整合的だった。JPモルガンのマイケル・フェローリ米国担当主席エコノミストは、米2月雇用統計の結果を受け、ゆるやかな利上げを推進してきたイエレンFRB前議長の政策を正当化させたと指摘する。しかし、働き盛りである25〜54歳の労働参加率は景気後退以前の水準近くへ回復しており、“高圧経済”政策は終焉に塚付きつつあるといっても過言ではない。

25〜54歳の労働参加率は2月に82.3%と前月から0.4%ポイントも大幅改善したものの、バロンズ誌の指摘と裏腹に金融危機前の83%台は遠いような・・。一方で、失業率は3.5%と金融危機前の水準以下まで低下。

lp
(出所:My Big Apple NY)

米株市場は利上げへの警戒を示しておらず、強気相場が開始して9周年を迎えた3月9日にナスダックは過去最高値を更新して引けた。ダウは2月8日の直近安値から6.2%回復、S&P500も同日から8%買い戻されている。

ウォール街が米2月雇用統計を受けて上昇した3月9日、トランプ大統領が北朝鮮の金正恩委員長と会談することが判明した。ビアンコ・リサーチのジム・ビアンコ代表は、これを受け金融市場の“レジーム・チェンジ”の可能性を指摘。すなわち、米債市場はもはや米株市場の救い手でなくなったという。過去に米株市場が下落した時は、米債市場が上昇してきた。おかげで、2013年のテーパー・タントラムを除き、投資手法として株式60%に対し債券40%のポートフォリオ戦略が有効であり続けた。

ビアンコ氏は、今年に入ってこうした関係性に終止符が打たれると見込む。物価上昇とFedや中央銀行の政策正常化が予想以上のスピードで緩和環境を取り除くためだ。

相場の変遷を振り返ると、1970年代に物価が2桁の伸び率を示した結果、金利は過去最高をつけた。1980年代に物価が落ち着くと偉大なる強気相場の時代を迎え、米金利の低下に合わせ米株が上昇していく。

21世紀に入り、市場はリスク・オフ、リスク・オンの相場へ移行してきたが、足元の“レジーム・チェンジ”の証左として、VIX指数が急騰し米株が急落した今年の2月以降、米金利が低下することはなかった。VIX指数がリスク・オフ相場に反応して上昇してきた時と、逆の反応を示したわけだ。

決定的な違いの一つは、ディスインフレ圧力の後退とインフレ上昇圧力の台頭だ。もう一つは、中銀の政策である。ビアンコ氏によれば、インフレ期待の上昇と共に、利上げ見通しも上方修正される。それと共に米株と米債は資産買入という“寛大な中央銀行”時代の終わりに直面し、既にFedは資産圧縮の真っ最中にある。欧州中央銀行と日銀が、それに続く見通しだ。

米債が米株のヘッジとしての役割を終えたとしても、現金に相当する証券がある。6ヵ月物の財務省短期証券(Tビル)の利回りは1.88%と、S&P500のリターンとほぼ同等だ。Tビルは米債と違って値上がりしないものの、値下がりもしないが、米株下落局面では、ポートフォリオに安定をもたらすだろう。


米2月雇用統計の結果に金融市場が反応しなくなったのは、年3〜4回の利上げ織り込み度が米1月雇用統計で高まったためで、米2月雇用統計でその見通しに変化を加えなかったためでしょう。

米債が米株のヘッジとしての役割を失う“レジーム・チェンジ”については、中銀の政策だけを問題視すべきではないでしょう。そもそも米10年債利回りは1月の年初から上昇するなか、米株は過去最高値を更新してきました。2月の米株安局面では、むしろ1月の上昇ペースから鈍化していたものです。むしろ米債の需給環境を圧迫しているのは、Fedの資産圧縮よりも、税制改革法案の成立に伴う財政赤字拡大懸念とも考えられます。これまで、海外勢が米国債を売り越した局面で、投資信託や年金が買いに回っていましたが、今後もこの流れが続くかどうかが米株市場の安定を占う上で重要になってくるでしょう。

(カバー写真:RosieTulips/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年3月11日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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