中国の強国化を率いる紅二代布陣

加藤 隆則

王岐山・新国家副主席と握手をかわす習近平氏(人民日報より引用:編集部)

習近平のスタイルは、毛沢東ら革命世代の二代目「紅二代」として、共産党の原点回帰、正統の継承にある。したがって党の一貫性、純潔性にこだわるが、従前の慣行をもとに「前例」や「不文律」といった基準を当てはめるのは慎んだほうがいいようだ。全国人民代表大会で選出された王岐山国家副主席の人事がそうだった。昨年10月の第19回党大会で、前国家副主席の李源潮は66歳で、不文律の党幹部定年68歳に達していないにもかかわらず、中央委員から外され、引退が決定した。異例づくめの国家副主席人事だった。

王岐山はすでに69歳で、昨第19回党大会で党中央規律委員会書記を辞し、中央の指導部から退いている。今回の全人代では憲法修正案も可決され、第一条に「中国共産党の指導は中国の特色を持つ社会主義の最も本質的な特徴」の一文が追加された。初めて前文ではなく条文の中に「中国共産党の指導」を明記し、画期的な意味を持った。そのロジックに従えば、党の指導者でない者が国家の指導者に就くのは矛盾しているようにみえる。

だが、それは外野観客の観察であって、プレーをしているピッチャー兼キャプテンはそうは思わなかった。最終回まで優位を保ち続け、確実に勝利をものにするためには、息の合ったキャッチャーがどうしても必要なのだ。しかもそのキャッチャーは、すでに十分な打点を稼いだので、キャプテンの座を脅かさないようバッターとしては表に出ない。もっぱら守りのシンボルとして、ピッチャーの球を受けていてくれればいい、というわけなのだ。

王岐山は反腐敗キャンペーンの旗振り役として、数多くの高位高官を牢獄に送り込んだ。自らの家族がからむスキャンダルが海外で暴露され、キャンペーンに恨みを買った抵抗勢力から反撃も受けた。国家主席である習近平の補佐役として肩書を残すことは、王岐山の身の安全を確約する保険となる。王岐山は、習近平の腹心としてとどまることにより、命運を習近平に委ねたことになる。

もちろん、習近平は王岐山の能力をフルに活用できる。金融や経済に明るく、外国との交渉でも原稿なしに雄弁を振るうことで知られる。副首相として米オバマ政権との閣僚級会談を取り仕切った経験もあり、米国とのパイプはさらに深まった。経済担当の副首相に就任した劉鶴・党中央財経指導小組弁公室主任はハーバード大学留学経験があり、きっての米国通だ。いずれも米国と肩を並べる強国化の国家目標を体現させた人事である。

王岐山はまた、メディア界をはじめとする紅二代の開明派の後ろ盾でもある。習近平は王岐山を通じ、こうしたグループをも取り込むことができる。いずれにしても、習+王体制は、紅二代の総意を代表する布陣だと言える。このトップとナンバーツーのコンビを「盟友」と呼ぶのは間違っている。力の差が圧倒的にあるからこそ関係が安定する、兄弟関係に近いものを想像したほうがいい。

3月17日、習近平は国家主席に選出された全国人民代表大会の会場で、人民解放軍兵士によって運ばれた赤い憲法に左手を置き、右手を挙げ、下記のような憲法順守宣誓を行った。中国の指導者が初めて行ったセレモニーだ。

「私は宣誓する。中華人民共和国の憲法に従い、憲法の権威を守り、法定の職責を履行し、祖国と人民に従い、厳格に職務を守り、廉潔に奉仕し、人民の監督を受け、富強で民主的で、文明を備え、調和のとれた美しい社会主義近代強国建設のために努力奮闘する!」

今回の全人代で修正された憲法のもとになった1982年憲法が当時、全人代で採択された際、採択の宣言をしたのは習近平の父親、習仲勲だったことは以前にも触れた。前例破り、恒例破りの新スタイルにも、根っこには紅二代のリーダーとして、党の一貫性、純血性に足場を置く信念が貫かれていることは間違いない。


編集部より:この記事は、汕頭大学新聞学院教授・加藤隆則氏(元読売新聞中国総局長)のブログ「独立記者の挑戦 中国でメディアを語る」2018年3月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、加藤氏のブログをご覧ください。