プーチン氏の次の夢は終身制導入?

長谷川 良

ロシア大統領府サイトより:編集部

ロシア大統領選にはサプライズがないことは大方のメディアは知っていた。8人の候補者が擁立されていたが、ロシアの大統領選が民主的に実施されているというアリバイ工作(複数候補者)のようなもので、それ以上でも以下でもない。プーチン氏の選挙ポスター用の顔写真が候補者の中で唯一の反クレムリンの女性司会者クセーニア・ソプチャク氏(36)の傍にあったのもクレムリン側の細かい配慮が伺えるというものだ。プーチン氏に取って唯一心配事は投票率だっただろう。低投票率は国民の反プーチン票と受け取られるからだ(投票率約67%)。

あれや、これやの懸念はあったが、モスクワ中心部で18日夜、勝利宣言をしたのはウラジーミル・プーチン氏(65)だった。大統領通算4期目、2024年まで新たに任期が与えられた。欧米諸国はまた6年間、この人と付き合わなければならない。

プーチン氏は大統領通算4期目に加え、2008年から12年まで首相時代を送ってきた。ヘルムート・コール元独首相の16年間最長任期を既に軽く超えている。プーチン氏の最長任期記録を将来脅かす政治家が出てくるとすれば、クーデターなど不祥事がない限り、中国の習近平国家主席だろう。中国全国人民代表大会(全人代)は3月11日、国家主席の1期5年の2期10年間の憲法条項を撤廃し、終身制への道を開く憲法改正案を賛成多数で成立させたばかりだ。だから、習近平氏は2023年以降も国家主席のポストに座り続けることができる。プーチン氏もうかうかしておれない。プーチン氏は任期中、2期12年間の現大統領任期制限を中国と同じように撤廃するかもしれない。

欧米の政治家は夢にも見ることができない76%を超える得票率を得たプーチン氏は本当に国民から愛されているのだろうか。オーストリア国営放送は18日夜、モスクワから市民に反応を聞いていたが、3人に2人はプーチン氏に投票したという返答が返ってきた。曰く「プーチン氏はロシアに安定をもたらした」といった声だ。唯一、若い青年が批判的な意見を出していたが、モスクワの寒さの前にその声は弱々しく響いた。

独週刊誌シュピーゲル(電子版)にはびっくりするようなデーターが掲載されていた。「ロシア国民の平均寿命は男女平均で73歳。欧州で最も低い」というのだ。ロシアは過去、国民の健康問題や教育関係に国家予算の7%しか拠出していない。それに反し、軍事費は30%の増額が決まったばかりだという。プーチン氏は本当に国民の健康を考えているのだろうか。

当方は国連人口基金(UNFPA)の2017年「世界人口白書」に基づいて、「北の金王朝は国民に『寿命』を返せ」2017年10月31日参考)というコラムを書き、韓国と北朝鮮の平均寿命の差は女性で10年、男性で11年だと指摘し、「金王朝は国民の寿命を奪った」と厳しく糾弾したばかりだ。プーチン氏は過去18年間の任期で国民の寿命を奪ったのではないか。にもかかわらず、ロシアン国民の76%はプーチン氏を支持したというのだ。クレムリンのディスインフォメーションの勝利を意味するのだろうか。

ロシアで昨年3月26日、モスクワ、サンクトペテルブルク、ウラジオストクなどロシア82カ所の都市で政治家、経済界の腐敗・汚職を追及するデモ集会が開催された。モスクワだけでも1030人のデモ参加者が逮捕された。その中には大学生や高校生などの若者の姿が多かった。

シュピーゲル(4月1日号)はプーチン大統領時代しか知らない若い世代がモスクワや各都市で反腐敗のデモ集会に参加したことに対し、「若者たちは硬直した国内政治から国を目覚めさせようとしている」と述べる一方、「新しい世代のアイドルは反政府活動家のアレクセイ・ナバリヌイ氏だ。彼はプーチン大統領を更に脅かす存在となるかもしれない」と報じた。その若者たちはどこへ行ったのか。ナバリヌイ氏は中央選管から立候補を却下されている(「ロシアの若者たちは目覚めたのか」2017年4月10日参考)。

プーチン氏はクリミア半島を併合し、国民の支持を得た。プーチン氏は国内政策では愛国主義を前面に出している。「悪いのは西側だ。ロシアは今こそ結束して西側を打倒しなければならない」というのがその基本的トーンだ。敵を明確にして、その敵への憎悪、敵対心を煽る政策は昔から独裁者が得意とする戦略だ。

一方、外に対してはアラブ諸国との連合に力を入れ出している。アラブ諸国が欧米のキリスト教諸国と対峙する構図を巧みに利用し、アラブ諸国と協調を強化することで冷戦時代に敗北した共産主義の復興を夢見ている。決して妄想ではなく、プーチン氏は巧みにそのコマを駆使しているのだ。シリア、イラン、イラクなどと軍事提携を強め、アラブ諸国での影響力を確実に拡大している(「バラバと左の強盗が手を結ぶ時」2018年2月1日参考)。

プーチン氏の強さはその長期政権にある。プーチン氏を批判する欧米の政治家が出てきても数年で彼らは姿を消すが、プーチン氏は中国の習氏と共に長期的視野でそのコマを動かすことができる。選挙に追われる欧米諸国の政治家を尻目に、プーチン氏はトルクメニスタンのベルディムハメドフ大統領から65歳の誕生日に贈られたアラドイの子犬と戯れながら欧米諸国の弱点を研究し、次の一手をじっくりと考えることができるわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年3月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。