タスキを渡すということ

生命保険はお客さまに10年、20年、30年と超長期にわたって保障をお約束する事業です。会社を立ち上げて、開業してからしばらくの間、それはマラソンのようなものだと説明していました。

しかし、自らフルマラソンに出場するようになって、そのたとえは必ずしも適切ではないと考えるようになりました。42.195キロという距離を走る時間は、市民ランナーで4~5時間。慣れると意外とすぐに終わってしまうのです。何より、一人で完走できる競技です。

著書にも書いたとおり、生命保険事業はむしろ、2日間にわたって一人約20キロの区間を10人でタスキを繋ぎ、217.1キロを走る、箱根駅伝のようなものではないかと考えるようになりました。超長期の事業は一人では決して達成することができない。多くのメンバーでタスキを繋いでいく。それでいて、与えられた区間はフルマラソンのようなペース配分をするのではなく、全力で駆け抜ける必要がある。これは生命保険事業に関わらず、ゴーイングコンサーンを使命とする企業全般に言えることなのかもしれません。

共同創業者で前会長である出口治明は2008年から2013年までの5年間、いわば第1区の走者として初代の社長を務めました。「還暦ベンチャー」と呼ばれたように60歳からのスタートでしたが、その全力疾走ぶりは鬼気迫るものがありました。そこから私はタスキを受け継ぎ、2013年から2018年までの5年間、2代目の社長を務めました。自分なりに、花の2区を第1区に負けないくらい全力で駆け抜けてきました。そしていま、第3区の新社長となる森亮介にタスキを渡そうとしています。

出口は、会社の核となるビジョンと経営理念を打ち立て、講演などで自ら全国を行脚して当社の認知度の向上と好感度の高いブランド作りに奔走し、会社の基礎を築きました。

私は、超長期ビジネスの2代目の社長として、3つの役割を果たすことが重要だと考えていました。

①    インターネット直販を補完する販売チャネルの確立

②    強固な資本基盤の構築

③    次の経営体制を担う経営者の育成

1点目について、新契約の一定割合をインターネット直販以外のチャネル経由でお申し込みいただけるようになりました。KDDI社による「auの生命ほけん」、そして、ほけんの窓口などの対面代理店です。ネットを補完する販売チャネルを確立させたことで、将来必ず来るであろうデジタル生保の時代に大きく飛躍するまでの準備ができたと考えています。何より、チャネル間でお客さまの声を共有することによる付加価値は大きいと感じています。

2点目について、2015年4月、ライフネット生命はKDDI社と資本業務提携契約を結びました。KDDI社は当社の発行済み株式総数の16%弱を取得し、提携直後から取締役を派遣してもらっています。また、KDDI社は保険業法における「保険主要株主」としての認可を金融庁から取得しました。私たちが大株主から取締役を迎え入れたこと、そして保険主要株主となっていただいたことは、開業してから初めてのことでした。さらにKDDI社は2017年11月に株式の買い増しを行い、約25%を保有する大株主となっています。これによって、74年ぶりに生まれた独立系生命保険会社としてのチャレンジスピリットに加え、お客さまに安定して保障を提供し続ける強固な礎を築くことができました。また、第2位の大株主として、世界有数の再保険会社であるスイス再保険会社にも株式を保有していただき、資本面に加え保険事務などの業務面も支えてもらっています。

3点目について、新たに代表取締役社長に就任する森亮介は卓越したリーダーシップと強い実行力、そしてお客さまに対する熱い思いの持ち主です。ライフネット生命の創業の精神を受け継ぎ、発展させる人材としてこれ以上の適任者はいないと考えています。社長としての在任期間中に次の経営体制を担える人材とチームを構築できたことは非常に喜ばしいことです。

実現できたこともあれば、社長として、実現できなかったこともあります。現行中期計画のトップラインの経営目標は、1年を残した段階で達成が難しいと認識しており、この点は心残りです。ただ、2016年度、2017年度と2年連続で新契約業績は増加基調にあります。会社として前向きな状況であるこのタイミングで次の経営体制に移行することが、当社にとって最良のタイミングだと考え、社長のタスキを渡す決断をしました。

岩瀬さんと次期社長の森さん(ライフネットジャーナルより:編集部)

代表取締役等の異動のお知らせ

私は引き続き取締役会長という立場で、より一層の成長を目指す新たな経営陣と社員をサポートしていきます。ライフネット生命には私が一緒に働くことを選んだ魅力的な仲間がたくさんいます。また、ライフネット生命は素晴らしいお客さまによって支えられています。私たちを信頼し、ご本人やご家族の大切な保障を託していただいた皆さまには、変わらず感謝の気持ちでいっぱいです。

まだまだライフネット生命の挑戦は続いていきます。皆さまからのご支援が何よりも当社の挑戦を後押しします今後とも、ライフネット生命をどうぞよろしくお願いします。

P.S. 次期社長を務める森と私の対談をライフネット生命のオウンドメディア「ライフネットジャーナルオンライン」に掲載しています。ぜひご覧ください。

タスキを受け取るということ―ライフネット生命の次期社長 森亮介に迫る


編集部より:このブログはライフネット生命保険社長、岩瀬大輔氏の「生命保険 立ち上げ日誌」2018年3月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は岩瀬氏の公式ブログをご覧ください。