バロンズ:米株急落の理由は、トランプ政権の通商政策というよりも…

2018年03月26日 08:00

バロンズ誌、今週のカバーは情報漏えい問題で揺れるフェイスブックを取り上げる。20億人以上の利用者を抱える同社の情報漏えいは個人情報の管理をめぐる課題を炙り出したとも言え、米欧の議会では規制強化の議論が一段と高まってきた。規制強化ヘの不安に加え広告主の撤退リスクが意識され、同社の株価は3月19日週に14%も下落、時価総額750億ドル相当を喪失してしまう。フェイスブックは政府、企業など専門家との協力体制を強める意思を表明したが、果たして今後どうなるのか。詳細は、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測する名物コラムのアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週は米株急落とトランプ政権の通商政策にスポットライトを当てる。抄訳は、以下の通り。

米株急落の陰に存在する、見えない力—The Unseen Forces Behind the Market’s Plunge.

米株相場というのは、将来の価格を下回って推移するものだ。しかし、足元の米株急落は今そこにある明確なリスクを反映している。フェイスブック株の大幅安は、個人情報問題への懸念が背景だ。もう一つがトランプ大統領による通商政策で、中国の輸入品、約500億ドルに対し関税を課すと発表した。お陰で、米株相場の時価総額のうち1.8兆ドル相当が吹き飛ばされた。3月19日週は2016年1月8日以降で最大の落ち込みをみせるとともに、年初来の安値で取引を終えることになる。

貿易摩擦の高まりは、トランプ政権で想定の範囲内と言えよう。CLSAのクリストファー・ウッド氏に言わせれば、トランプ大統領はあくまで選挙公約に忠実を実行しているまでであり、オバマケア撤廃に失敗したとはいえ、税制改革や規制緩和を成功に導いた。なおトランプ氏は、過去に中絶をはじめ社会問題などでスタンスを変えてきたことはあったが、貿易赤字に関しては一貫している。

中国製品への関税賦課を明示した大統領令を受け、米通商代表(USTR)は15日以内に対象リストを作成し、30日間のパブリック・コメント期間を設ける予定だ。つまり、鉄鋼・アルミの関税対象として欧州連合(EU)、カナダ、メキシコ、ブラジル、アルゼンチン、オーストラリア、韓国が除外となったように、実施されるまでに最終的にどうなるかは蓋を開けてみないと分からない

対中関税で米国内の商品への需要が強まるだろか?JPモルガンの米国担当エコノミストであるマイケル・フェローリ氏とデビッド・シルバー氏は、そのような想定に疑問を寄せる。例えばコンピューターや電子機器など中国からの輸入が大半を占めるものの、アジア諸国に取って代わるだけと考えられるためだ。一方で、輸送機器や農業機材の輸出はダメージを受けるだろう。中国政府は23日、30億ドル相当の米国輸入品に関税を賦課すると発表した。JPモルガンのエコノミストである両氏は、報復措置の影響は成長見通しを変更するに至らないとしているが「ビジネス信頼感への波及効果、あるいは貿易摩擦の深化によっては、米国経済見通しに大いなる下方リスクを与える」と結ぶ。

輸入制限は、米経済よりも企業へのダメージが大きくなるだろう。TSロンバードのダリオ・パーキンス氏が指摘するように「自動車は日本でエンジンが製造され、カナダで部品が組み立てられ、メキシコで最終工程に入る 。iPhoneも中国製と言われるが、実際は韓国、台湾、日本、米国が製造過程憎み込まれている」。

とはいえ、中国による知的財産侵害への対応策として、強硬的でない手法は奏功してこなかった。世界の国内総生産(GDP)ツートップである両国の対決は、回避できないものだったのだろう。おまけに、米国は世界最大の債務国で、中国が最大の債権者だ。米株が急落するのは、驚きではない。

「ニュースが市場を形成するというより、市場がニュースを作る」というのは、かつてのトレーダーの言葉だ。米連邦公開市場委員会(FOMC)は21日、市場予想通り25bpの利上げを行いFF金利誘導目標を1.5〜1.75%に設定した。結果、ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)は上昇。ウェドブッシュ・セキュリティーズで株式担当ヘッドのイアン・ウィンター氏は「リヤドからシドニーに至るまで、短期金利市場はドル建てLIBOR金利の上昇の影響を受けている」と語り、その状況を伝える。2008年の金融危機や2010年の欧州債務危機と違って、テクニカルな要因がLIBORの上昇を促すとはいえ、借り手に負担が重くのしかかることに変わりはない。例えば、LIBORに連動する2兆ドルもの債務を有する企業や、変動金利で住宅ローンを組んだ米国の家計などが影響を受けるだろう。

3ヵ月物のドル建てLIBORの推移。

libor
(出所:Stockcharts)

3ヵ月物のドル建てLIBORは2017年末に1.69%、前週2.2%だったところ、3月23日には2.285%へ急伸した。ブリークリー・アドバイザリー・グループのピーター・ブックバール最高投資責任者(CIO)にしてみれば「トランプ大統領の通商政策より、最もネガティブなニュース」だ。ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ・U.S. ・インターミディエイトリー・ビジネス・グループのマイケル・アローン氏は、借入コストの上昇で困難に直面するのは債務に依存する企業だと指摘。非金融機関の米企業債務はGDP比で45%に達し、金融危機以降で最大であるためだ。配当や自社株買いの中断も、視野に入る。

LIBORの上昇は、政策の変化で説明できる。米国政府の債務上限は2019年3月まで引き上げられ、米財務省は国債の発行を増やしてきた。その一方で、米連邦準備制度理事会(FRB)は保有資産を圧縮中である。従って、アンクル・サムはFed以外に米国債の買い手を見つけなければならない。特に短期債の買い手が必要であり、その短期債と言えば金利上昇の影響をもろに受けている年限である。さらに、税制改革法案成立で本国還流(レパトリ)が低税率で一括課税されるようになり、設備投資や株主還元策に用いられ始め、ドル供給量が減ってしまった。バロンズ誌の別コラムでは今年の自社株買いが過去最高額に達すると伝えたが、これは米株市場にとってポジティブだが、LIBOR金利にはマイナスである。

借入コストの上昇に、どう対処すべきなのか。BCAリサーチは、ドル建ての資産を保有する投資家に低金利の外国債を推奨すると同時に、ドルのヘッジとして高利回り債を勧める。例えば、ドル建て資産でヘッジを行えば、独10年債で3.3%の利回り(ユーロ建てなら0.53%)が得られるという。個人投資家には難しい手法だが、機関投資家には可能だろう。あるいは、銀行融資のファンドに賭けてもいいのではないか。パワーシェアーズ・シニア・ローン・ポートフォリオ(BKLN)などが、良い例だ。クローズ型ファンドで銀行融資商品に投資すれば、流動性懸念を懸念する必要はない。 LIBORの上昇を懸念する声が高まる一方で、こうした混乱に乗じて利益の果実をつかもうとする投資家が存在するものだ。


米株相場はトランプ政権の通商政策から派生した貿易戦争への懸念、フェイスブックの個人情報漏洩問題に端を発した規制強化への不安、LIBORの上昇と三重苦で遂に年初来安値を更新してしまいました。市場関係者の間で広がりつつある年4回利上げ予想が、巻き戻されてもおかしくありません。

パウエルFRB議長は、3月FOMC後の記者会見で「多くの参加者がトランプ政権の通商政策を議論に取り上げ」、且つ「企業から広範に及ぶ関税賦課措置や貿易摩擦への懸念が聞かれた」と明かしました。しかし、それでもFOMC参加者は経済・金利見通しに鉄鋼・アルミ関税措置などを反映させなかったと結論づけています。その経済・FF金利見通しでは、あと1人が年4回利上げ予想にまわれば、今年の年内利上げ予想・中央値が4回となっていました。

税制改革法案成立前の2017年9月FOMCでも、経済・金利見通しに同法案を予想に織り込まなかったと説明していました。年後半のFOMCだったため、法案成立直前の2017年12月のFOMCで成長見通しの引き上げで帳尻を合わせるのみにとどまったものです。しかし、3月FOMCで限りなく4回に近い3回予想を呈した結果、仮に通商政策が経済減速のトリガーを引くのならば、今後のFOMCで説明責任を果たす必要が生じます。筆者が2月に米国出張に赴いた際、NY在住のエコノミストは口を揃えて「FOMCの記者会見の回数を毎回に変更する」と予想していました。パウエル氏は「慎重に検討していく」と語るにとどめていましたが、現実となるのか注目です。

(カバー写真:Zach Korb/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年3月25日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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