米国の関税引き上げに対する中国の報復はあるのか、米国債も人質に?

トランプ政権は3月23日に米通商拡大法232条に基づき、鉄鋼・アルミニウム製品の輸入制限を発動した。国内の鉄鋼・アルミ産業の衰退が「国家の安全保障上の脅威になる」として、一部の例外国を除き、鉄鋼は25%、アルミは10%の追加関税を課す。

また、トランプ大統領は3月22日に1974年通商法301条に基づく対中制裁措置の発動を決定している。これにより、情報通信機器や機械など約1300品目を対象に25%の関税を課すことになる。

中国政府はこの米通商法301条に基づいた対中制裁に報復する意向を示し、米国を強くけん制した。崔天凱・駐米大使は23日に米国債の購入減額について「あらゆる選択肢を検討している」と含みを持たせた。つまり、報復措置として米国債の購入を減額するなどの手段を講じる可能性を示した。

このように、301条の制裁に対する中国の報復措置がどのようなものになるのかが、焦点となっていた。

これを受けて米中の貿易摩擦から貿易戦争に発展しかねないとの観測が強まり、22日のダウ平均は大きく下落し724ドル安、そして23日のダウ平均は424ドル安となった。

しかし、ここにきてムニューシン財務長官が米政権が中国との間で建設的な対話をしていると発言するなど、米中の政府間で水面下の協議が進展しているのではとの観測が出てきている。

フィナンシャル・タイムズ紙は26日に、匿名の関係者の話として、中国政府は対米黒字を削減するため、米国からの半導体輸入を拡大する。代わりに韓国や台湾からの輸入を抑えると報じた。

また、ロイターはトランプ米政権は貿易戦争回避に向けて中国と交渉を開始しており、米国製自動車に対する関税引き下げ、外資による金融機関への過半の出資認可、米国からの半導体輸入拡大などを要求していると報じている。

トランプ大統領は大統領選挙の期間中に中国製品の輸入関税を引き上げなどを選挙公約としており、それを実行に移した格好となった。やや強行ともいえるこの発動については、11月の中間選挙を睨んだものとも言えそうだが、株価が過剰反応を示したように、扱い方によってはむしろ自分にとっては不利な要因ともなりかねない。このため、水面下で中国との妥協策を講じて、貿易戦争は回避しようとしているようである。

中国としてもここで貿易戦争を起こしても、決して自分に有利になるとは限らない。中国の米国債の保有もあくまでドルの運用先であり、これを政治利用するとなれば、米国の債券市場が過剰反応し、米国債の価格が急落するような事態も起こりうる。そうなれば、中国としても保有する米国債をすべて手放すことはありえないため、保有している米国債で損失を被るリスクがある。もちろん米国市場そのものが動揺する懸念があり、トランプ政権としてもそのような事態は避けたいところであろう。

中国の報復措置として米国から輸入する大豆などに高関税を課すという手段も想定されているようだが、これは米国の大豆を生産する農家を直撃するだけでなく、大豆の多くを輸入に頼る中国の消費者にも影響を与えることになる。

一見、強気を通しているかにみえるトランプ政権ではあるものの、公約は守っているかたちをとりながら、相手国となる中国などとの妥協点を探り、悪影響を極力及ぼさない方法を模索しているようにもみえる。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年3月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。