【映画評】BPM ビート・パー・ミニット

渡 まち子
BPM(Beats Per Minute)

1990年代初頭のフランス・パリ。エイズ・アクティビストの団体“ACT UP PARIS”は、エイズへの偏見や、政府・製薬会社の不当な対応を正そうと、過激な抗議活動を繰り返していた。新メンバーで内向的な性格のナタンは、HIV陰性ながら、積極的に活動に加わるようになる。ある時、差別的な言葉を投げかけられたことがきっかけで、行動派のメンバーのショーンがナタンにキスし、二人は急激に惹かれあっていく。だが、HIV感染者であるショーンの身体は、確実に病魔に蝕まれていた。一向に治療薬の開発が進まない中、やつれていくショーンを、ナタンはただ見守ることしか出来なかった…。

エイズに対する偏見や不当な扱いに抗議した活動家たちを描くドラマ「BPM ビート・パー・ミニット」。1990年初頭は、HIV/エイズの脅威は広がっていたが、正しい知識を持つものは少なく、政府は見て見ぬふり、製薬会社も治療薬のデータを公表しないなど、感染者にとって、あまりにもシリアスな状況だった。監督のロバン・カンピヨは、実際に当時ACT UPのメンバーだったそうで、本作は自らの体験をもとにしているという。90年代を舞台に、HIVを取り扱った作品といえば、同じフランス映画でシリル・コラールの「野生の夜に」を思い浮かべるファンも多いことだろう。エイズの衝撃は広く世に伝わりながらも、治療に革命が起きるには1996年の新治療の発表まで待たねばならない。

映画の前半はACT UPの活動をドキュメンタリータッチで紹介するもので、人工の血糊をオフィスに投げつけたり、許可なく学校を訪れてコンドームを配ったりと、時に過激すぎる彼らの行動は、全面的に共感できるものではない。それでも、躍動的で華やかなデモやパレード、エネルギッシュなクラブでのダンスシーンは、限りある生を謳歌する輝きに満ちている。後半は、ナタンとショーンのラブストーリーになるが、HIV陽性のショーンの病状が悪化し、命が尽きていく過程があまりにもつらく悲しすぎて思わず涙した。特に、本能的に愛を渇望するショーンの頬を伝う一筋の涙が忘れがたい。90年代はHIV/エイズ治療に先が見えない、苦しい時代だが、それでもこの時代こそ無理解や無関心を打破する扉が開かれた歴史的な瞬間だったのだ。セクシュアリティを題材にし政治的なカラーが強い作品だが、見終われば切ない青春映画のような残像が残っている。
【70点】
(原題「120 BATTERMENTS PER MUNITE」)
(フランス/ロバン・カンピヨ監督/ナウエル・ペレース・ビスカヤート、アルノー・ヴァロワ、アデル・エネル、他)
(切なさ度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2018年3月28日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Twitterから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。