スポーツによる街の活性化:流行り言葉で思考停止にならないために

2018年03月29日 06:00

アリゾナ州フェニックスのチェイス・フィールド(公式サイトより:編集部)

秋田県の佐竹知事が、J3ブラウブリッツ秋田(BB秋田)の本拠地となるスタジアムの新設構想に関し、「地方で複合型は成功しない」と発言したことがニュースになっています。

複合型スタジアム構想に否定的(NHK)

サッカーJ3、ブラウブリッツ秋田のスタジアム整備をめぐり、クラブなど官民連携の協議会が今月、サッカー以外にも活用できる複合型スタジアムの構想をまとめたことに対し、秋田県の佐竹知事は、26日の会見で「地方で複合型は成功しない」と述べ、否定的な考えを示しました。

(中略)

ブラウブリッツなど官民連携の協議会が今月、サッカー以外にも活用できる複合型スタジアムの構想をまとめたことについて、佐竹知事は「地方で複合型は成功しない。あの構想は東京のコンサルタントが自分でもうけるために示したものなので東京の言うことは聞かない。あれは全部商売だ。自分でものをこなしたことがない人が理想論を言っている」と強く批判しました。その上で、佐竹知事は「構想は参考にはするが、できるのかできないのかを協議するのはこちらだ」と述べ、複合型スタジアムの構想に否定的な考えを示しました。

発言は多少過激な部分もありますが(笑)、地方自治体の首長としては正しい態度なのではないかなと思います。むしろ、「スマート・ベニュー」(ちなみに、この言葉は株式会社日本政策投資銀行の登録商標です)といった流行り言葉を分かったつもりになって使って思考停止になっているよりは、よっぽど良いと思います。

FBでもポストしましたが、多機能複合型は経営上の変数が多くて難易度が高いモデルです。米国でも多機能複合型は数えるほどしかありませんし、成功モデルが確立しているわけではありません。

昨年、米国で新球場とともに周辺開発地域「The Battery Atlanta」を同時オープンした初めてのケースとなったアトランタ・ブレーブスに何度か話を聞きに行きましたが、プロジェクト責任者は、「我々としても何がKSFなのか当たりがついていないのが正直なところ。だから、変化に迅速・柔軟に対応できるオーナーシップを確保しておくことが重要」と言っていました。これが、ブレーブスが周辺開発に要した5億5500万ドルを全額拠出している理由です。ブレーブスのケースでは、球団が中心となって推進する多角化事業の1つとして街があるというイメージです。

まあ、球団が中心になって街を作っちゃうというのはむしろ例外的なケースかもしれませんが、米国でも多機能複合化に舵を切っている球団・都市に共通するのは、試合観戦だけでは溢れる顧客需要を取りこぼすため、その周辺にも受け皿を作ろうというのが基本的な考え方です。仕事柄、米国内で多機能モデルを計画・展開しているフランチャイズにはかなり足を運んでいますが、強力な動員力のあるアンカーテナントの存在が成功の前提条件になるように感じます。

これを踏まえると、多機能複合型にすれば必ず成功するというわけではないですから、「構想は参考にはするが、できるのかできないのかを協議するのはこちらだ」という佐竹知事のスタンスは、これはこれで真っ当な自治体経営者としての在り方だよなと思います。ただ、「地方で複合型は成功しない」と断言してしまうだけの材料は、少なくとも僕にはありませんが。。。

スポーツ施設は“生き物”ですから、一旦建設してしまえばあとは10年20年メンテナンスだけしていればOKなんてことはありません。激変する競合環境を睨みながら、競合他社が真似できない独自のValue Propositionを構築する努力を怠れば、その施設は建ったまま死んでしまいます。

例えば、野球ビジネスを例に挙げて考えてみるともう少しイメージが沸くかもしれません。NY市には、ヤンキースとメッツというMLB球団が本拠地を構えています。両球団のスタジアムは、車で行けば30分、地下鉄なら1時間ちょっとの距離にあります。また、同じくNY市内には両球団のシングルA球団が1つずつあります(SIヤンキースとブルックリン・サイクロンズ)。さらに、マンハッタンから車で1時間半圏内に独立リーグの球団が4つあります。

つまり、同じ野球ビジネスで飯を食っている競合球団だけでも8つあるわけです。MLBならブロードウェイが、マイナーや独立リーグなら映画館やモールが競合相手になりますから、本当の競争環境はもう少し複雑です。こうした中で、他社ではなく自社の球場に足を運んでもらうための独自の提供価値を考え抜き、変化する事業環境に応じて自身も変化し続け、それを施設設計にも定期的に反映しなければなりません。つまり、どこにも当てはまる正解などないのです。

誤解なきように言っておきますが、日本でバズワードになっている「スマート・ベニュー」というコンセプト自体が悪いわけではありません(すみません、登録商標なので勝手に使うと怒られてしまうかもしれませんので、最小限に留めます)。守破離ではないですが、最新コンセプトを参考にしつつ、最終的には自分たちの事業環境にフィットするモデルを自分の頭で考えるしかないのだと思います。

最近は日本でもスポーツ施設建設プロジェクトの構想がいくつも立ち上がってきています。まだ初期段階のものが多いようですが、僕のところにも最近不動産会社さんやゼネコンさん、総合商社さんなどから相談事が舞い込むようになりました。ただ、話を聞いて少しだけ怖いなと思うのは、流行り言葉が先走りして「ITを活用してスマートアリーナを建設します」みたいな、どこに進むか分からないまま進んでいるような計画であったり、テナント(施設を長期間利用する球団)が決まっていない中で、アウトサイダーだけで事業の話が進み、誤解を恐れずに言えば、大家ビジネスで汗をかかずに儲けが出るのではないかというイメージを抱いているようなプロジェクトが散見されることです。

最近日経ビジネスに書いたコラム「運動施設の命名権、米国より収益性が低い訳は?」で、日米のスポーツ施設の収益性の違いやその背景などに触れていますが、ここでも書いているように、事業価値を高めるためには施設所有者とテナントの協力体制が何よりも重要になってきます。

いずれにしても、スポーツ施設の建設計画では、「スマートなんとか」という流行言葉から離れて、自分の言葉で自らの経営モデルを語れるようになることが必要なんじゃないかなと思います。僕は2年ほど前から北海道日本ハムファイターズの新球場プロジェクトの外部アドバイザーをやらせて頂いていますが、プロジェクトメンバーの日常会話の中にはこうした「スマートなんとか」という流行り言葉はまず出てきません。


編集部より:この記事は、ニューヨーク在住のスポーツマーケティングコンサルタント、鈴木友也氏のブログ「スポーツビジネス from NY」2018年3月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はスポーツビジネス from NYをご覧ください。

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鈴木 友也
スポーツマーケティングコンサルタント

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