小田急線の混雑緩和と時間短縮はもっとできるのでは? --- 阿部 等

2018年03月29日 21:00

写真AC:編集部

構想から50年、着工から30年にして小田急線の代々木上原−向ヶ丘遊園(登戸−向ケ丘遊園は3線)の複々線化が完成した。3月2日深夜に切替工事が実施され、17日から土休日、19日から平日の新ダイヤとなった。

1972年の都市交通審議会にて「1985年までに代々木上原−新百合ヶ丘を複々線化」と答申され、全区間が地表及び高架で計画されていた。それに対し、沿線では日照権侵害や騒音・振動公害を理由に地下化を求める裁判となり、反対が特に強い下北沢付近は地下となった。

当初の目論見より区間は短縮され、30年以上も余計に要しての完成であり、関係者の苦労は並大抵ではなかった。

大幅な混雑緩和

小田急は「ラッシュピーク時の列車の運転本数を改正前の27本から36本に」と案内している。各区間の本数を数えると向ヶ丘遊園→代々木上原が35本で、ロマンスカー1本を加えて36本となる。

10両編成の比率も高まり、輸送力が大幅に増強され、混雑が大幅に緩和される。小田急は、最混雑区間(世田谷代田→下北沢)のピーク1時間混雑率が改正前192%から改正後150%程度に緩和されると予測している。

ロマンスカーを除いたピーク1時間の通過車両数は1.34倍となり、192%÷1.34は143%なのだが、サービスアップにより京王線と田園都市線からのシフトが見込まれ、妥当な予測だろう。

大幅な時間短縮

かつての小田急の朝ラッシュは「駅に停まる各停、駅間に停まる急行」と揶揄された。複々線区間が伸びるに従い、優等列車が先行の各停に詰まってのノロノロ運転が少なくなり、今回のダイヤ改正でさらに改善された。

本厚木が海老名より近く、町田が新百合ヶ丘くらいに、多摩センター(頭の小田急を省略、以下同様)が栗平くらいになった感じだ。

多摩線が特に改善

多摩線の多摩センターと永山は京王線と隣接し、新宿方面の輸送で競合する。今までは、朝ラッシュの多摩線の利用が増えると本線の混雑がますます激しくなるので、あえて便利にせず利用を抑制せざるを得なかった。

改正前後の多摩センター7時台の時刻表を比較すると、本線の輸送力を増強できた分、多摩線の利用を喚起しようとの小田急の戦略が分かる。新宿直通の優等列車がゼロだったのに対し、通勤急行を10分おきに設定した。

多摩センター→新宿の所要時間は40分(改正前の各停の直通は1時間強)となり、同時間帯の京王の急行・区間急行の50分前後を大きく下回る。しかも、半数以上を多摩センター始発として10分くらい待てば着席できるようにした。永山から1駅逆戻りして着席する人も続出するだろう。

旧ダイヤは6分40秒に速達2+各停1

旧ダイヤの向ヶ丘遊園→代々木上原は、向ヶ丘遊園7:18発の準急 綾瀬行から8:22発の急行 新宿行まで、6分40秒=400秒おきのほぼパターンダイヤだった。9サイクルで1時間となる。

1サイクル6分40秒に、急行2本または急行と準急(いずれも朝ラッシュは登戸・成城学園前・下北沢・代々木上原のみに停車で経堂は通過)各1本と、各停1本だった。代々木上原から、急行または準急のおおむね4本に1本が千代田線に直通、残り3本と各停の全てが新宿行で、急行と準急が10両、各停が8両だった。

新百合ヶ丘→向ヶ丘遊園は、準急が各駅に停まり、速達タイプの急行より各駅に停まる準急・各停の方が若干多く、パターンはなく、1本おきだったり、いずれかが2本連続だったりで、併せて6分40秒に3本だった。途中に待避駅はなく完全平行ダイヤのため、速達タイプも先行列車に詰まって5.7kmに8分程度を要し、平均40km/h強のノロノロ運転だった。

町田→新百合ヶ丘は、速達タイプの急行が各駅に停まる準急・各停より若干多く、パターンはなく、急行の2本連続が一部あり、併せて2分50秒おきくらいだった。準急・各停は全てが鶴川で急行を待避し、先行列車に詰まらない急行は9.3kmを約8分の平均70km/h弱、詰まる急行は約11分の平均50km/h程度だった。

新ダイヤは10分に速達4+各停2

※ダイヤ改正で通勤急行・通勤準急と列車種別がさらに増えた。(小田急公式サイトより)

新ダイヤでは、快速急行の停車駅に登戸が加わり、朝ラッシュ上りの相模大野→新宿は5分おきの運行である。その他、多摩線直通の通勤急行と千代田線直通の通勤準急が新設され、通勤急行は登戸を通過、向ヶ丘遊園と成城学園前に停車し、快速急行と選択(千鳥)停車の関係である。

海老名・多摩センター・片瀬江ノ島→新宿を通して、新百合ヶ丘7:17発の快速急行 新宿行から8:12発の快速急行 新宿行まで、10分おきのほぼパターンダイヤである。6サイクルで1時間となる。

複々線化された向ヶ丘遊園→代々木上原は、1サイクル10分に速達タイプ4本(快速急行2、通勤急行1、通勤準急1)と各停2本である。速達タイプが先行列車に詰まらずスムーズに走行できるようになり、また代々木上原→新宿も、各停が6分40秒おきから10分おきに少なくなった分、速達タイプの走行がスムーズになった。

一方、新百合ヶ丘→向ヶ丘遊園は、ピーク1時間に27本から29本(ロマンスカー1本を含む)に増えた分、速達タイプの先行列車への詰まりが大きくなり、所要時間9分、平均40km/h弱が標準となった。町田→新百合ヶ丘は、全ての快速急行が先行の通勤準急または各停を鶴川で追越し、8分走行、平均80km/h弱が標準となった。

以上により、混雑緩和、所要時間短縮、千代田線直通増発が達成され、利便性は飛躍的に高まった。

ただ、朝ラッシュ上りにもロマンスカーが運行し着席サービスが提供されるとの期待は叶わなかった。改正前、ラッシュ直前のロマンスカーは新宿7:34着、直後は9:16着だったのが、改正後は7:40着と8:42着となり、運行されない時間帯は狭まったものの、ピーク1時間の運行はない。

小田急ダイヤはさらに改善できる?

さて、複々線化による輸送能力の向上をもっと活用できるのではないか。また、ダイヤの工夫により本数増と所要時間短縮をもっとできるのではないか。さらに、ピーク時間帯に割増料金を払っても着席したいニーズに応える方法があるのではないか。

いずれの回答もYESである。

海老名・大和・町田・多摩センターなどから新宿・大手町などへ、毎朝40〜70分も立ちんぼの人が多数だ。複線のままの向ヶ丘遊園以遠の増発は限度があるが、折返し引上げ線のある向ヶ丘遊園と車庫のある成城学園前から多数の始発列車を運行すれば、全区間の半分くらいを快適通勤にできる。

相変わらずノロノロ運転の続く新百合ヶ丘→向ヶ丘遊園は、速達タイプと各停タイプの2本立てのダイヤに無理がある。全列車を選択(千鳥)停車とすることで、マジックのように本数増と所要時間短縮を実現できる。

全体の輸送力を増強した上で、編成の先頭と最後尾のみをロマンスカーの車両とすることで、全列車でロマンスカーサービスを選べるようになる。中間の一般車も、着席と立席で値段差を付けることで、始発列車の有無による不公平をなくせ、割増料金を払えば途中駅からでも着席サービスを選べるようになる。小田急の売上げは増え、車両改造費等を充分に賄える。

※着席割増料金を無人で確実に収受でき、値段も臨機応変に変えられる。

簡単にはできないが、やればできる?

もちろん、1時間36本よりさらに増やすことは簡単にはできない。車両増備、留置場所確保、運転士養成、要員増、乗務員宿泊施設拡張、変電所増強等々を要し、地上設備や車両の保守の手間も増える。コスト増を上回る売上げ増がなければ実行できず、また、新宿−代々木上原と向ヶ丘遊園以遠は開かずの踏切対策も欠かせない。

複々線化は連続立体交差事業と一体的に実施されて多額の税金が投入され、小田急の負担分は約3,100億円で、年50億円の増収を見込む。2016年6月20日付け日経新聞は「総工費に対して年間50億円の増収効果では、一見すると投資効率が低いと言わざるを得ない」とし、「不動産や商業・レジャー関連でどこまで収益を上乗せできるかが問われる」と評したが、鉄道の増収効果をもっともっと大きくできるのではないか。

私は鉄道会社に慈善事業を求める考えはない。むしろ、民間企業として当然の利潤追求を堂々とすべきであり、その結果として、人々の生活利便を高め、社会の生産性を向上できたら、大きな社会貢献だ。

割増料金で着席したいとの潜在ニーズに応えることで、大きな利潤を得られる。複々線化による増発余力を活かして着席サービスを大量に供給でき、壮大なビジネスチャンスを目前にしていると言えるのではないか。

また、小池都知事の公約「満員電車ゼロ」を最初に達成し、社会から評価を受け、沿線価値を大幅に向上できるチャンスでもある。

混雑緩和と時間短縮をさらに達成し、着席ニーズに応え、小田急の鉄道増収効果を高める具体的なダイヤ案や収支試算を、3月31日に町田での鉄道トークショーにてお話する。日々小田急線を使い、複々線をもっと活かせるのではないかと感じている皆様と、未来の可能性を一緒に考えたい。

阿部 等 株式会社ライトレール 代表取締役社長
東京大学工学部都市工学科大学院修士修了。JR東日本(第1期生)に17年間勤務し、鉄道事業の多分野の実務と研究開発に従事。その後、交通問題の解決をミッションに株式会社ライトレールを創業。交通や鉄道に関わるコンサルティングに従事し、近年は鉄道に関する様々な解説にてメディアにしばしば登場。

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