【映画評】ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書

2018年04月03日 06:00
「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」オリジナル・サウンドトラック

ベトナム戦争が泥沼化しつつある1971年、アメリカでは反戦運動の気運が高まっていた。国防総省(ペンダゴン)はベトナム戦争についての客観的な調査・分析した膨大な文書を抱えていたが、その一部をニューヨーク・タイムズがスクープする。ライバル紙に先をこされたワシントン・ポスト紙では、女性発行人キャサリン・グラハムと編集主幹ベン・ブラッドリーの二人が残りの文書を独自に入手し、真実を伝えるため全貌を公表しようとする。だが、それはニクソン大統領率いる政府を敵に回す危険な行為だった…。

ベトナム戦争時に政府が隠した機密文書を公表するべく奔走した新聞記者たちの姿を描く社会派ドラマ「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」。最高機密文書のペンタゴン・ペーパーズとは、アメリカ政府とその4代にわたる歴代大統領が、ベトナム戦争に勝機はないとことを知りながら、それを隠したまま戦争になだれこんだた不都合な機密文書を指す。政府と大統領による隠ぺい工作とは、あきれてものが言えないが、これがアメリカ現代史の真実である。だからこそ、スティーヴン・スピルバーグは、トランプ政権誕生の瞬間に映画化しようと決意し、たった1年という短期間で見事に骨太な政治ドラマを作り上げた。まさにタイムリーな映画なのである。

映画は、政府の圧力に屈せずに報道の自由を勝ち取り、真実を公表する使命に燃えたジャーナリストたちを描くが、スピルバーグが偉大なのは、それだけにとどまっていない点だ。物語はサスペンスフルだが、政府が機密文書を隠ぺいした事や、潰しにかかったワシントン・ポスト紙が今も健在なこと、このことが後のウォーターゲート事件の引き金になった史実を私たちは既に知っている。既視感がある事実に、もう一つのタイムリーな視点、フェミニズムを持ち込み、それを軸にした点が上手い。アメリカ主要新聞社史上初の女性発行人キャサリン・グラハムは、父や夫の亡き後に新聞社を継いだ人物だが、社交は好きでも控えめな性格で、仕事では無能な経営者と思われていた。そんな彼女が、徐々に殻を破り、文字通り命がけで政府にケンカを売る決断をするプロセスは、まさに女性の成長物語そのものだ。そんなグラハムを演じる名女優メリル・ストリープの演技が、力演や熱演ではなく、静かで淡々としているのがいい。一人の女性の勇気ある決断が、アメリカを、ひいては世界の歴史を変えてみせた。大きな政治的事件を取り扱っているが、同時に、弱さや迷いを持つ生身の人間の視点を忘れない。スピルバーグが巨匠と言われる理由がよくわかる作品だ。
【80点】
(原題「THE POST」)
(アメリカ/スティーヴン・スピルバーグ監督/メリル・ストリープ、トム・ハンクス、サラ・ポールソン、他)
(フェミニズム度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2018年4月1日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Twitterから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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