医師の働き方改革は是か非か?職種固有のルール制定を

2018年04月03日 06:00

昨今、世間では「働き方改革」という言葉が、日夜メディアを賑わせています。デジタル化や産業構造の変化により、「仕事」の概念がここ数年で変化してきて、それとともに、これまでの「大量生産型」ともいえた、画一的な時間労働も変革を迫られています。医師の世界も例外ではありません。医師は、近年では8000〜9000人が医学部を卒業し、人員自体は増加しているのですが、高度な専門性の発達やデジタル化に伴った仕事の増加により、医師不足傾向が続いています。また、女性医師や高齢医師の増加が近年は目立っています。

これまで、男性主体の医師の世界では、一人が200パーセントがむしゃらに働くことで、比較的レベルの高い医療を安価に、多くの人に提供してきていました。診療科にもよりますが、研修医や、30代までの比較的若手の医師は、月に4回以上の当直をこなし、その翌日もフルに働き、さらに週数回のオンコール(電話で呼ばれたら病院に来る。そのため、何かあったら駆けつけられること、電話がつながるようにしておく必要がある)をこなしていることが珍しくはありません。

また、当直やオンコールのない日でも、通常勤務だけで夜10時頃まで病院にいるということは日常茶飯事です。現在は柔軟で変則的な勤務形態を取っている筆者も、以前は24時間体制のように働いていた時期があります。今思えばストレスフルだったのでしょうか、やや過食気味となり、体重は10キロ近く増え、毎晩のように「暴君ハバネロ」を食べ続けたせいで、20代にしてコレステロールが異常値に振り切れました。

当直明けなどによくあったのが、「歯磨き粉と間違えて洗顔フォームで歯を磨いてしまう」ことでした。全身に原因不明の蕁麻疹が出たことも何度かあります。これは10年以上も前のことですから、当時は周囲に安易に相談することもできない文化でしたし、「耐えるのが当たり前」でしたので、そのように思い込んで勤務をしていたのですが、今思えば、大きな医療ミスを犯さなかったことが奇跡のように思えます。また、あのまま何十年も勤務していたら、いつかは突然死していたのではないかとも思うときがあります。過重労働の研修医による医療ミスや、医師の過労死などの報に触れると、他人事ではないと心がざわつかざるをえません。

こういった労働環境の中で、子持ちの女性医師や、病気持ちの医師などの、「200パーセントの力で働けなくなった人」は、「フルタイム労働」からは「脱落」し、健康診断などの、それほど専門性の高くないパートタイム労働をするというのがよくあるルートでした。医師版「マミートラック」とも言うべきルートです。

しかし、近年、女性医師や高齢医師が増加し、また、今後もこれらの層の増加が見込まれており、相次ぐ「ドロップアウト」により、総合病院のフルタイム医師は慢性的に不足状態が続き、かたや「簡単な仕事へのドロップアウト」をした医師も、能力を十分に生かすことができないという状態になっています。そういう背景もあり、厚生労働省は、1月の中央社会保険医療協議会総会において、診療報酬の一部について、週3日、週あたり24時間以上勤務している複数の非常勤職員の組み合わせで常勤として算定することが可能になるという改革を発表しました。つまり、「常勤」の概念を緩和したのです。また、画像診断や病理診断を行う医師に関しては、ICTを用いた勤務場所に関する規定も緩和され、一定の条件のもとで自宅で診断業務をしても算定できるようになりました。

以前は医師の勤務時間については、(実質的には)労働基準法が適応される状態ではなかったように思いますが、近年では2016年6月に聖路加国際病院に調査が入り、結果的に土曜日の外来を一部休止せざるを得ない状態にまで追い込まれました。そして、2月27日には、厚生労働省より、医師の働き方改革に対する検討会の中間報告書が出されましたが、複数主治医性や勤務時間インターバルなどの案が盛り込まれています。

昨今世間を賑わせていた「高プロ」の対象職種には医師ははいっておらず(成果と時間が連動するため)、議論の余地はあれど、医師は労働者という位置づけのようですが、他の職種と同様に、労働基準法に則った働き方が有効なのかは議論の余地のあるところだと思います。やはり、仕事内容の特殊性から、業界独自の基準が必要になってくるように思われます。他の業界と同じように、「9時5時、残業なし」などが全医師に適応されてしまえば、若い医師は育たなくなってしまいますし、地域医療が成り立たなくなる可能性もあります。

医療の安全を守るために、週当たりの勤務時間の上限や、連続労働時間の規制、当直開けは完全休日を義務化など、業界独自の基準を定め、医師の立場(専門医取得後なのか、研修中なのか)によっても、労働時間の上限を変える必要がでてくると思います。

いずれにしても、他の職種と足並みをそろえることよりも、専門職独自の基準を定めていくことがより必要ではないでしょうか。例えば、アメリカではレジデントの労働時間は週80時間で、連続勤務は24時間までと定められています(2017年、1年目のレジデントの連続勤務制限が16時間から24時間に緩和されるという「揺り戻し」が起こったばかりです)。

また、複数主治医性や交代制は必須となってくると考えられます。日本人は協調性を重んじる育て方をされる割には、割り切ったチームプレイは苦手とする傾向があるようにも見えますが、全体最適のためには「美しい部分最適」を捨てる必要にも迫られるかもしれません。

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松村 むつみ
放射線診断医、医療ジャーナリスト

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