ロッテ井口新監督に学ぶ「働き方改革」と「オフィス改革」

2018年04月04日 06:00

球団公式サイトより引用

先週開幕したプロ野球はこの火曜から2カード目に入った。楽天の三木谷浩史社長らが「プロ野球は日本社会の縮図」と評するように、グラウンドレベルの戦いから球団経営に至るまで、国民性を投影していると感じさせることはままある。きのう(3日)のnoteの個人コラムでは、NPBのガバナンスについて取り上げたが、監督の手腕に一般社会のビジネスのヒントを見出す人も多いはずだ。

だから、新監督のお手並みを拝見するのは毎年の楽しみという経営者や管理職もいるだろう。今シーズン、個人的には、かつて番記者だったときに現役時代を取材したロッテの井口資仁監督の仕掛ける改革には注目していたが、出足は好調だ。楽天との開幕戦は落としたものの、翌日から2連勝で勝ち越し。2カード目、オリックスとの初戦だった昨晩は、エース金子千尋投手を打ち崩し逆転勝利となり、3連勝。球団史上ワーストの87敗(54勝)で最下位に終わった前年の不振を忘れさせる好スタートだ。

そんなロッテのベンチ裏では何が起きているのか。スポーツメディアの日々の記事も情報源であるが、この球団の広報担当が球団内外の各メディアで書き下ろしているコラムが読み応え抜群で、ロッテファンは情報収集に困らない。というのも、広報担当は、サンケイスポーツの阪神番記者として辣腕だった梶原紀章氏。記者時代に培った取材・筆力がありながら、記者たちが入り込めないエリアでの選手たちの肉声を生き生きと伝える。長年続いている地元紙・千葉日報での連載に加え、最近は文春オンラインでも掲載するほど、野球メディア関係者の間では「その人あり」という書き手だ。

そんな梶原広報のコラムも今年は当然、井口監督のマネジメント手腕をさまざまな角度から伝えているわけだが、最近で面白かったのが、千葉日報に掲載したコラムだ。

開幕早々から期待をもたせる井口流「オフィス改革」

記事では、プロ入り初の2打席連続本塁打を放った井上晴哉内野手と新監督との微笑ましいエピソードが紹介されている。そして、昨年まで現役だった監督が選手ロッカーをふらりと訪れることもあれば、逆に監督室のドアを開けて選手たちの訪問も歓迎し、井上選手には井口監督から「ここのソファで昼寝をしてもいいんだぞ」とジョークも飛んだという。

このコラムを読んだ時、私は井口流の「オフィス改革」に乗り出したのだと感じた。もちろん、一般企業でいうようなオフィスと、球場の部屋割りは違うが、それでも上下関係の厳しいスポーツの世界だ。特に実績の乏しい若手選手が、監督室に入るというのは、さしづめ大企業の若手社員が重役室に入るのと同等以上の壁がある。

8年前まで私が番記者だった頃とマリンスタジアムの一塁側ベンチ裏の基本的構造は変わっていないと思うが、選手ロッカーはベンチの裏手すぐのところにある。そして、監督室は廊下を挟んだ斜め反対側にある通路の、さらに奥の方に位置している。数十メートルは離れていようか、この物理的・心理的距離は小さくない。

しかし、引退から間もなくで、まだ兄貴分ともいえる指揮官のほうから歩み寄ってくることで、その障壁は着実に下がっているようだ。もちろん、その目的は、コミュニケーションを濃密にしてチームの一体感を高める狙いからだ。

一般の企業でも、組織内のコミュニケーション構造を変えるのに、オフィスのレイアウトを変える試みは有効な手段として位置付けられている。部署間の縦割り打破のために、社員が必要に応じて臨機応変に座席を変える「フリーアドレス」を取り入れる企業は増えているのもそうだ。近年、二子玉川にオフィスを移した楽天本社も、社長も役員も個室なしにしてフラット化を心がけている。

タテとヨコの職場コミュニケーション:井口流それぞれの改革

職場のコミュニケーションは、タテとヨコの2種類がある。タテはすなわち上司と部下のそれで、ヨコは部署内や他部署とのやりとりを指す。井口監督は監督室の開放により、タテのコミュニケーションを円滑にしようとしている。一方、ヨコのほうはどうか。実は今年の年明けに梶原広報のコラムでもう一つ面白かったのが、コーチの育成会議だ。


これは井口監督の発案で初めて行われたそうだが、選手たちがキャンプ前の自主トレをしている最中、監督、コーチが千葉市内のホテルに2日間泊まり込み、コーチ同士で考え方を合わせるのが狙いだった。コーチ同士の合宿は球団では初の試みだが、野球人にとっては異分野の、組織戦略コンサルタントも講師に招いて組織作りを学んだというのだから、その意気込みも伝わっていた。

シーズンに入れば一軍と二軍のコーチ陣の交流は減少する。コーチ同士が仲の悪いチームだと、複数いる打撃コーチによって教える理論が違ったりして選手を苦悩させることもたまにあるのだが、そうした問題も「一気通貫した組織作り」で解消されることが期待できる。泊まり込みだから、記事には書かれていない、夜の交流タイムを通じての一体感醸成があったであろうことも想像に難くない。当初は指導者経験なしに監督に就任した井口監督の手腕が未知数とされたものの、この記事を読んだ時、野球以外の領域まで組織作りのヒントをすでに探していた背番号6の「新人離れ」した周到さを感じたものだった。

もちろん、絶対王者のソフトバンクと比較すれば、ロッテの選手層の薄さは一目瞭然だ。メジャーで2013年に21本塁打をマークし、待望のパワーヒッターとして補強したドミンゲス内野手が極度の不振で開幕は二軍落ち。一発攻勢が望みづらい純国産打線で長いシーズンを戦い抜けるのか、これまでの球団の補強バックアップの消極さのことを考えると、この勢いがどこまで続くのか不安は残る。

しかし、指導者経験がない新人監督で、これほど面白い引き出しを持っているのは珍しい。選手として日本とメジャーを両方見てきた経験も奏功しているはずだし、選手時代から国会中継を趣味でみていたことで知られ、野球以外への見識が広いことも大きい。

「オフィス改革」「働き方改革」の実践で、ロッテが今年こそ優勝争いに加わることができるのか、注目している。

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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