バロンズ:金融市場が注視すべき、関税以外の米株安要因とは

2018年04月09日 06:00

バロンズ誌、今週のカバーはAIを取り上げる。AIは疲労も失敗もない無限の労働力となる潜在力を持ち、運用の世界でも投資を容易に、手頃に、かつ効率的とさせる期待が膨らむ。既に大手運用会社は数十億ドルをつぎ込んでおり、ブラックロックはパロアルトに、フィデリティはボストンに、晩ガードはフィラデルフィアのダウンタウンに、T・ロウ・プライスはNYにテクノロジー・センターを設立済みだ。運用の世界で火蓋が切って落とされているAIの導入と活用で、どの運用会社がどのような手段で投資でリードしていくのか、詳細は本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測する名物コラム、アップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週は米株安と米中貿易戦争を取り上げる。抄訳は、以下の通り。

関税交渉のみが米株の問題にあらず—Tariff Talk Isn’t the Only Problem for Stocks.

「血、労苦、涙、そして汗」というより、「少しの痛み」が生じる程度——トランプ大統領がNYのラジオで6日、対中関税の影響について発言した時、誰がチャーチル元英首相の言葉を思い出させると考えただろうか。

チャーチル元英首相が第2次世界大戦中に英国民を鼓舞する必要があった一方、トランプ大統領は中国との関税合戦を激化させる手段を採った。トランプ大統領は5日夜、500億ドル相当の中国製品ヘ向け追加関税案を発表してすぐ、中国側の報復関税措置を受け、1,000億ドルの対中追加関税を検討するよう指示したと声明を発表。トランプ大統領は翌6日に「少しの痛みを伴わないとは言わない、しかしながら米株市場は40%、42%も上昇しており、上昇分を小幅に削る場合もあるだろう。もっとも、我々は全てが終わった時にさらに強大な国となっている」と発言、米株安の引き金を引いた。

トランプ大統領が米株高について言うところの「40%、42%」が何を意味しているかは不明だ。ウィルシャー・アソシエーツによれば、ウィルシャー5000は2017年1月20日の就任式から16.31%高、2016年11月8日の大統領選から24.6%高を示すに過ぎない。そして、(1,000億ドル相当の追加関税措置検討を発表した)6日には、2.6%安を迎えた。その日、S&P500は2.19%安、ダウは2.34%安、ナスダックは2.28%安で取引を終えた。

とはいえ、2日週の下落はクドロー国家経済会議委員長の発言が奏功しゆるやかにとどまった。同委員長は投資家に米中間で報復関税の脅威が眼前に迫ったものではなく、具体化したものは何もないと説明していた(筆者注:ただし、232条に基づく鉄鋼・アルミ関税措置は3月23日から発動)。こうした発言は、S&P500が200日移動平均線を上回って終了するなど、テクニカル的な節目での買い戻しを誘ったものだ。しかし、一連のPR活動はトランプ大統領による1,000億ドル相当の追加関税検討指示で打ち砕かれた。

習近平氏が憲法改正で国家主席として終身を可能とした結果、国民からの反発を懸念する必要がない半面、トランプ大統領と共和党陣営は中間選挙を前に支持者を意識せざるを得ない。中国側が大豆を関税対象に狙い撃ちしたのは、2016年に共和党に投票した米中部が生産地であることを意識したものだろう。ただ運用会社Galtereの創立者で商品先物取引ベテランの Renee Haugerud氏いわく、現時点で米中部の大豆農家は米中間での関税措置合戦に動揺しているようには見えないという。同氏は700エーカーの”研究施設”を保有しているといい、中西部の情報には非常に詳しいことで知られる。

大豆先物も米株と同じく200日移動平均線割れを回避しただけでなく、6日は陽線引け。

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(出所:stockcharts)

3日に大豆先物が急落したものの、Haugerud氏によれば大豆農家は引き続き作付け計画を維持している。Haugerud氏の情報源によれば、仮に中国が米国産大豆に関税を賦課したとしても、米政府が中間選挙を前に損失分を補助金で相殺する可能性が高いためだ。

仮に補助金が支払われるにしても、貿易戦争は大豆農家だけでなく、農業セクターや農機など農業ベルトを直撃する。しかも貸手は通商上の緊張が高まる前から、貸出基準を厳格化し始めていた。米連邦公開市場委員会(FOMC)の利上げが背景にある。米3月雇用統計後の講演で、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は貿易摩擦や市場のボラティリティ上昇から生じるリスクについて示唆を与えなかった

FF先物市場は米3月雇用統計後も6月12〜13日開催のFOMCでの利上げを織り込み、9月25〜26日開催のFOMCでもFF金利が2.0〜2.25%、あるいはそれ以上となる確率を73.6%見込む。今後、金融市場はFedが積極的な利上げ方向へ進む見通しによって下落してしまうのだろうか?JPモルガンのニコラオス・パニギルゾグロウ氏率いるエコノミスト・チームは、少なくともそう考えている。市場はFedが2020年の1〜3月期まで利上げを行うと予想し、その後は緩和策に転じると想定している。フォワード・カーブが逆に動く展開はこれまで稀で、1998年、2000年、2005年しかなく、逆イールドが発生した時でもある。例え貿易戦争が発生しなかったとしても、逆イールドカーブは弱気な前兆と言えよう。

これまで米国債は米株のヘッジとして機能してきたが、以前に指摘したようにその役割を終えつつある。米株が1月26日にピークアウトした陰で、米10年債利回りは10bp上昇してきた。ブリッジウォーター・アソシエーツの創業者、レイ・ダリオ氏は1月23日に「現金を保有しているなら、愚かに感じることになるだろう」と発言したが、現金保有はリターンをもたらさない代わりに、損失という痛みを庇うと、先月と同じように結論づけたい。


記事にある通り、パウエルFRB議長は3月FOMC後の記者会見でのトーンを変えず「労働市場は力強く、FOMC参加者も私も強さを維持すると見込む」と発言したほか、「最大限の雇用に近い(neighborhood in maximum employment)」と述べています。過去と比較して低水準にある労働参加率についても、「オピオイドが働き盛り男性の労働人口を減少させたかもしれない」との見解を示す程度でした。利上げに対しても、「経済が概して現状の道筋をたどる限り、FOMC参加者も私も、一段のゆるやかな利上げがこれら(最大限の雇用と2%の物価ターゲット)の目標達成を促す上で最善の策と信じる」と発言し、利上げの小休止など示唆していません。もし「見通しに変化が生じれば」金融政策の道筋も変わると述べた点を挙げるなら、貿易戦争に懸念を寄せたと言えるでしょうが、ここも基本線から変更なしと言えるでしょう。

米中間の貿易戦争についてメディアが集中報道するなかでも、講演原稿に「貿易」、「関税」の文言はなし。ただし、質疑応答で貿易問題がぶつけられた際に、3月FOMC後の記者会見通り企業から中期的リスクとの言及があったと指摘しつつ「質問にもう少し直接的に応じるなら、関税は物価を押し上げる(to answer your question a little more directly, tariffs can push up on prices)」と発言しました。関税措置発動は成長にマイナス材料ながら物価にはプラス材料であるならば、利上げを継続しないわけにはいきませんよね。この見解、及びリスクバランスがいかに変わってくるのでしょうか。

(カバー写真:The White House/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年4月8日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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