国の借金はこどもの負担にならないの?

池田 信夫


21世紀になっても東海道新幹線や名神高速道路を例に出して国会答弁をする安倍首相は困ったものですが、これに若い世代が「その通りだ」と喜んでいるのはかわいそうなので、わかりやすく説明しておきましょう。

安倍さんの話の前半は正しい。東海道新幹線や名神高速は世界銀行からの借金で建設され、高い収益を生み出しました。1960年代には日本のインフラは貧弱だったので、公共事業の収益率は企業より高かったのです。

でもインフラ投資の効率は、地方に行くと悪くなります。整備新幹線は最初から赤字覚悟で、税金を投入しています。これは将来世代の税負担になりますが、こういう「建設国債」は将来世代にインフラが残ります。

首相官邸サイトより:編集部

いま安倍さんが発行する国債は、ほとんどが社会保障の赤字の穴埋めです。老人がもらう年金は老人が消費してしまう「赤字国債」なので、将来世代にインフラは残りません。今の老人は、こどものクレジットカードで買い物しているようなものです。

でもだれかの借金はだれかの資産だから、プラスマイナス・ゼロになるはずです。クレカの場合は、みなさんの借金が銀行の資産になるので、社会全体としては同じです。国の借金の場合は、個人消費と政府支出がプラスマイナスゼロですから、老人とこどもを合計すると同じです。

だから「負担は発生しない」と安倍さんは思っているのかもしれませんが、借りるカネと貸すカネはいつも同じですから、この理屈だと世の中に負担は発生しません。国が借金を返すときは増税しないといけないので、税負担が発生します。国が無限に借金できれば負担は先送りできますが、いま1000兆円の借金を2000兆円、3000兆円…と増やしたらどうなるでしょうか?

無限に借金を先送りできるとしても、島澤諭さんなどの計算のように、今の0歳以下のこどもの純負担(負担と給付の差)は所得の50%を超えます。それでも老人は年金をもらえるので、社会全体としては得も損もしていませんが、こどものみなさんがもらう年金は払った保険料よりはるかに少ない。これでこどものみなさんは納得しますか?

0歳まで先送りできるのはベストシナリオで、現実にはどこかで国債が消化できなくなり、国債の値段が下がります(金利が上がります)。この金利が、こどものみなさんの負担です。この金利より国の投資収益率が高ければいいのですが、残念ながら社会保障の赤字の収益率はゼロです。だから国債の金利がゼロに近い今はいいのですが、いつまでもゼロが続くはずがありません。

安倍さんも建設国債の例を出しているので、赤字国債を無限に出していいとは思ってないんでしょうが、アベノミクスはゼロ金利に賭けるギャンブルです。その限界は近づいているので、日銀も金利を上げる「出口」をさぐっています。今すぐ日本経済が大変なことになるわけではありませんが、こどもの負担はじわじわ増えるでしょう。今より軽くなることは絶対ありません。