米国が非居住二重国籍者へ所得税課税強化で混乱

八幡 和郎

401(K) 2012/flickr:編集部

アメリカとの二重国籍者で外国で暮らしている人たちにアメリカが所得税支払いを求める措置を強化し、フランスでは大騒動になっている。日本でも他人事ではない。

フランスのF2テレビ・ニュースによれば、フランスでアメリカとの二重国籍者でフランス在住者に、米国所得税課税や銀行取引困難の問題が生じて混乱が広がっている。

アメリカの税法が近年に改正され、海外に住んでいてもアメリカを国籍を持っていると、納税者番号を割り当てられ所得税が課税されることになったので、アメリカでフランス人の両親のもとで生まれ自動的にアメリカ国籍を取得し、そのあとアメリカに旅行すらしたことのない人に続々と「W9」という納税者番号を取得するようにという書類が届き、年金生活者に3000ドルの所得税課税の書類が届いたりしている。

フランスとアメリカのFATCA(外国口座税務コンプライアンス協定)という取り決めで、フランスの銀行はアメリカ生まれでアメリカ国籍を持つ可能性のある人についての情報をアメリカの国税当局に提供義務が生じたためである。

また、別のフランス人は住宅購入の融資をフランスの銀行に求めたところ、アメリカ生まれなので納税者番号を申告するように求められ、持っていなかったので出さなかったところ、融資を断られたという。

そこでアメリカ国籍からの離脱を試みたが、申請費用は総額1万1千ユーロに上るという。

日本の場合は、国籍選択という制度があるので、知らないうちに適法に二重国籍である人はいないはずだから安心だが、たとえ、フランスのように二重国籍が合法の国でもいいことばかりではありえない。二重国籍は権利も義務も二カ国分という当たり前の原則を無視して、権利は二カ国、義務は一カ国とかいう虫の良い気持ちでいる図々しい人がそういうことになっても、それは仕方ないことだ。

それがいやなら、早々に国政選択をし、アメリカ国籍を離脱すべきだ。

それから、「外国では二重国籍などなんの問題ない」なんて馬鹿なこといっている人にも警鐘になるだろう。アメリカの税制に詳しい専門家によると、以前から米国市民は海外居住でも連邦所得税の納税義務があったが(世界で2か国だけと言われている)、今回はその執行が厳密になったらしい。

一定額以上滞納があると、アメリカ旅券を発給してもらえなくなった。米国市民は世界中どこにいても、何かあれば海兵隊のヘリが飛んできて助けてもらえるので、その対価だとも言われているそうだ。

現在は、米国市民は徴兵制は停止されているが、もし戦争があって義務化されれば、徴兵の可能性もある。
余談だが、リベラルであることは二重国籍に寛容なことにはならない。移民に寛容という傾向は、欧米の左派やリベラルにもあるが、国籍についてあいまいだとか、違法であっても何が悪い、政治家の国家への忠誠など国粋主義だという思想は、世界中どこの左派にもリベラルにもない。

歴史的な経緯から複数の国籍を持つ人が多いので必要悪として認めざるを得ない事情が欧米にはあるのだが、アジアでは二重国籍を認めてきた歴史がそもそもない。中国はいっさい禁止だし、最近、運用のさらに徹底した厳格化を決定して波紋を広げている。

韓国は限定的に認めているが、これは李明博政権が、新自由主義的論理で優秀な人材に特権的に二重国籍を認めたのであって、人権が理由ではまったくない。

そもそも、二重国籍を認めろというのは、主として経済的な強者がより活動を自由にするために欲しがるのである。権利は二人分、義務は一人分認めろという虫のよい要求であってリベラルな正義にはむしろ反するのである。それでも、自国で活動して欲しいとかいう国が不公正で正義に反するが認めているというのが韓国型の二重国籍だ。

蓮舫「二重国籍」のデタラメ
八幡 和郎
飛鳥新社
2016-12-21

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