バロンズ:財政赤字より、個人消費の減速が問題か

2018年04月16日 06:00

ケベックで形作られたアルミの鋳塊はケンタッキー州に輸送され、シートに加工される。一部はメキシコへ送られ自動車の部品となり、米国やアジアに向かう。米国の半導体製造装置は中国の部品を加えアジアに納品され、スマートフォンとして大量生産されていく。これが、世界の製造工程だ。この世界各国の間で結びつくサプライチェーンは、米中の貿易摩擦の脅威にさらされている。足元で二国間は鉄鋼から冷凍豚肉まで、互いに国内総生産(GDP)の0.5%以下の製品に関税を賦課している状況だ(米国:太陽光パネル・洗濯機に最大前者で30%と後者で50%、鉄鋼・アルミでは前者が25%と後者で10%、中国は豚肉やアルミスクラップなど25%、継ぎ目なし鋼管やナッツ類に15%)。GDP比でみた規模は小さいものの、一段の追加措置による経済的な影響は無視できない。米中が追加で賦課する場合、ムーディーズのエコノミストは米中のGDPを「少数点のレベルで押し下げうる」という。米中の貿易対立が深化した場合に何が起こるのか、詳細は本誌をご覧下さい。

もう一つ、バロンズ誌が半期に一度集計するビッグ・マネー・ポールを紹介しよう。今回、3月半ばに送信されたeメールでの調査結果によれば、米国の1年先GDP伸び率は2.5%増との見方が大勢で回答者の40%、次いで3.0%増が36%に達した。トランプ政権の保護主義的な政策が打ち出されつつあるなかで、非常に楽観的と言えよう。世界成長率が強まるとの見方も75%なだけに、米株安とは裏腹に通商政策への警戒はそれほど強くなさそうだ。S&P500も強気派の年末予想は2,875(4/13の終値から8.2%高)弱気派でも2,493(同6.1%安)と、どちらかと言えば弱気派より強気派の鼻息の荒さを感じさせる。Fedの2018年利上げ予想は3回が61%4回は23%。ドルへの見方は1年先でまちまちとなり、対円で42%が上昇を見込むに対し34%が下落を予想する一方、対ユーロでは下落予想が42%と上昇予想の39%をわずかに上回っていた。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週は財政赤字を取り上げる。抄訳は、以下の通り。


財政タカ派で知られたポール・ライアン下院議長が引退を表明したのは、議会予算局(CBO)が財政赤字が2020年に1兆ドルを超えるとの予想を提示した2日後だった。財政赤字拡大の一因は、ライアン下院議長が議員としての成果に上げた税制改革法案にある。

財政赤字が2020年に1兆ドルに到達するとのCBO予想は、成長見通しが2018年分で2%→3.3%失業率予想も2018年が3.8%2019年が3.3%と楽観的であるにも関わらず、示された。一連の経済見通しは、Fedやエコノミストと比較しても、大いに強気と言えよう。

財政赤字のGDP比はいうと2018会計年度で4%(2017会計年度は3.5%)2019会計年度には4.6%2022会計年度には5.4%ヘ拡大する見通しだ。一方で、CBOが示す別の財政シナリオはさらなる悪化が見込まれ、2022会計年度の財政赤字はGDP比6%が予想され、政府連邦債務残高はGDP比で100%へ到達する公算だ。ただし、債務危機が5年以内に直撃した例は稀である。

CBOの財政赤字予想、GDP比。

cbo

(作成:My Big Apple NY)

英国が国際通貨基金(IMF)に融資を申し入れた1976年当時、政府債務残高はGDP比で50%程度だった。違いは通貨にあり、通貨安と高インフレによってIMFの救済を求めるしかなかった。逆に日本の政府債務残高はGDP比で250%を超えるものの、ゼロ金利と円高に恵まれている。両者の違いは、ウィリアム・ブレア・マクロ・アロケーション・ファンドのトム・クラーク氏によれば、貯蓄率と債権国としての立場だ。

米国は貯蓄率の低さで知られ、債務国である。米国債の消化を海外に依存する一方で、FRBが紙幣を印刷して債務を支払うことが可能だ。ギリシャが欧州中央銀行(ECB)に管理されているユーロを使用していることとは訳が違う。そうはいっても、債務がもたらすテールリスクを無視することはできない。かつてチェイニー副大統領がレーガン大統領に「財政赤字など問題ではない」と言い放ったが、4回も破産経験のある大統領の側近は彼に何と囁いているのだろうか。

CBOによれば、米政府は借入に依存する傾向が高いものの、バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチが実施した”メインストリートからの言葉”調査によれば、少なくとも若い世代は違う。同調査では、税制改革を通じた減税で押し上げられた可処分所得につき、3分の1が”支出に振り向ける”と回答し、特に”高額商品を購入する”、あるいは”日々の費用に充てる”との回答は16%に過ぎなかった。その他の22%は”貯蓄”に充て、20%は”債務支払いに割り当てる”と回答しており、いわば半数近い回答者はバランスシートの改善を目指す意思を明らかにしていた。

そのうち、”貯蓄に向ける”との回答はミレニアル世代(22〜37歳)がジェネレーションX世代(38〜53歳)を上回っていた。またミレニアル世代の間で”支出”に振り向ける回答は少なく、むしろ”債務の支払い(主に学生ローン)や投資に振り向ける”との回答が目立つ。

消費者のマインドが変わりつつあるなか、Fedは年内あと2回の利上げへコマを進めている。3月FOMC議事要旨では、利上げペースの加速にすら言及した。しかし、小売売上高は足元3ヵ月連続で減少し、リシオ・レポートによれば、これは景気後退期を除き過去5回しかない。変動が激しく修正も多い指標だが、リシオ・レポートが指摘するように、ハリケーン後の買い替えやホリデー商戦の反動消費者の関心は今、ハリケーン後の支出で増えた債務支払いや貯蓄の取り崩しを受けた積み直しに向かっている可能性を示す。

鈍化しつつある個人消費と、物価上昇は好ましくないコンビネーションである。ただFedは3月FOMC議事要旨では後者に注目する一方、投資家は個人消費の減速を意識しているように見える。両者の視点が違っているというのは、喜ばしい事態とは言えない。


財政赤字を取り上げるかと思いきや、個人消費支出の鈍化とインフレ上昇で締め括ったコラムとなりました。それはともかく、インフレの芽吹きが感じられた米3月消費者物価指数を見る限り、3月FOMC議事要旨でのインフレの見方は、正しいように思えます。その一方で個人消費で言えば、確かに米2月小売売上高までは3ヵ月連続で減少し、鈍化の兆しが現れていることも事実。ただし季節性残差、積雪要因、ハリケーンの反動などが想定され、4~6月期も軟調なままとは限りません。ひとまず米3月新車販売台数は年率で1,700万台を回復した通り、明るいサインも点灯しています。ひとまず、米3月小売売上高で増加に転じるか、お楽しみです。

(カバー写真:Ken Lund/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年4月15日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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