ICTによる診療報酬の緩和は、医師不足/偏在解消につながるのか

2018年04月17日 06:00

GATAGより:編集部

厚生労働省は、放射線診断と病理診断において、診療報酬請求に関して、勤務場所を必ずしも病院に限らないという方向性を示しました。週24時間以上同一施設で勤務する「常勤」の医師が、ICTなどを活用して、自宅などの遠隔で診断しても、それが診療報酬における加算(われわれの分野の場合、「画像管理加算」といい、加算のない場合と比べて少し高い診療報酬が請求できます)として認められるという内容です。

働き方の自由度が上がり、遠隔画像診断を併用することで、効率的な診断ができるようにも思われる改革なのですが、実際のところはどうなのでしょうか。

個人的には、この変更は、現場の人間にとってはそれほど使い勝手の良いものではないような気がします。今回の変更は、「常勤医が家でICTを活用して診断をしても、それを診療報酬として認める」という変更であり、場合によっては、常勤医が家でもずっと切れ目なく仕事をする羽目になるかもしれません。これまでは、家に戻れば、とりあえず(電話がかかってくることはあっても)仕事から解放されることができました。しかしこれからは、家でも、夜中でも24時間「場所を問わず」仕事ができてしまいます。

以前、放射線診断の分野では、院内で撮影した画像を、遠隔読影を行なっている会社に出して、その会社が契約を結んでいる医師が読影しても、画像管理加算が請求でき病院にもメリットがありましたが、4年前の診療報酬改定でそれができなくなりました。もちろん、加算を得ず、多少お金がかかっても質の良い医療を提供したいという病院はあり、そのような病院では、常勤画像診断医がいない場合や、足りない場合には遠隔会社に読影に出していることはよくあります。しかしそういった場合、病院側に金銭的メリットはあまりありません。

現在、内科や小児科などの、実際に患者さんを診察する分野でも、「遠隔診療」が叫ばれ始めています。しかし、患者さんを直接診察しないという特性のために、早期から遠隔診療が発達した画像診断分野では、診療報酬改定の方向性からは、遠隔診療の普及を抑えて「常勤化」を進めるという方向にいっているように見えます。確かに、遠隔画像診断を扱う会社は、利益追及に傾きすぎる懸念もあり(全ての会社がそうではありません)、画像診断医が「病院」という現場を離れてオフィスや家にこもってしまうという欠点もあると思います。また、とりあえず一つの職場に縛られる「常勤医」であれば「安心」という感覚も持たれやすいかもしれません。

ただ、いきすぎた「常勤化」にもデメリットはあります。先にあげた、常勤医が自宅でも24時間仕事に縛られる可能性のほか、ICT診療を行うためのインフラを、遠隔会社などが用意する既存のインフラが使用しにくく、個別に用意する必要がある可能性も出てきます。

また、画像診断でも病理診断でも、医師には専門分野というのがあり、とりあえず全分野網羅はしているけれども、得意分野、不得意分野があります。少数の「常勤医」が全分野を網羅しているという場合は少なく、専門性の高い分野に関しては、その分野に適した医師に遠隔診断を依頼する方が、正確な診断が下されることも多いのです。わたしも、遠隔地の病院から、専門である乳房の画像を送っていただいて、日々読影していますが、一箇所に「常勤」していた時よりも、専門分野の読影は増えています。また、一つの施設に縛られずに、同時に複数の施設に「勤務」したりすると、経験できる症例のバラエティが増える場合もあります。

ただ、「施設に縛られない」働き方をすると、人によっては勉強をするのをやめてしまったり、他人と会うこともなくなって自己流になる場合もあり、質が保証されづらくなる懸念もありますので(わたしはそういったことを防止するために大学病院での非常勤や研究を続けています)、そういった部分は、「専門医制度」が補えばいいと個人的には思います。

実際には、現在の専門医制度も、医療の世界がもともと持っていたフレクシビリティが少なくなる方向に動いているように見え、もっと工夫して、柔軟な制度設計にしないと、国も地域も、「専門医」という豊富なリソースの持つ潜在力を十全に引き出せないままになってしまう気もするのですが、さていかがなものでしょうか。

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松村 むつみ
放射線診断医、メディカルライター、アゴラ出版道場二期生

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