潜入取材でセクハラを暴いたFTの女性記者:日英の違いに見えること

2018年04月21日 06:00

潜入取材で富裕層のセクハラを暴いたマリッジ記者(BBCニュースより:編集部)

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上記の記事は2017年2月14日付英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙の記事を日経新聞が転載したものである。署名入りで、記者の名前はMadison Marriage(マディソン・マリッジ)。彼女がこの記事が掲載されてから約1年後にイギリスの政財界を揺るがす一大スクープを報じることになるとはこのときはFTの親会社である日経新聞も知る由もなかったであろう。

2018年1月、FTはチャリティー目的の裕福な男性のみが出席する慈善夕食会において、接客係の女性たちに対するセクハラがおこなわれていたことを報じた。このスクープはマディソン・マリッジ記者がホステスとしてイベントに潜入することにより得た情報をもとにしていた。

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このニュースはもちろんFT紙上でも大きく取り上げられ、マリッジ記者はBBCのニュース番組にも出演し、パーティーで行われたセクハラ行動や一部の女性がこの仕事に対して憤っていたり、ショックを受けていたことをインタビューで答えた。

報道と世論の強い非難を受け、パーティーを主催した慈善団体は解散、団体の代表も公職から辞任し、寄付金の返還など様々な余波が続いた。

この事件が報道された時、このような潜入取材の是非について知り合いの記者に聞いてみた。そもそも、女性記者の安全等を考慮に入れると、この取材手法を会社である新聞社が許可することが倫理的なのかという疑問があったからである。

「もしあなたの部下の記者がセクハラの温床となるイベントに潜入取材をすると言ってきたらどうします?」

という問いに対して、知人の返事(もちろん完全に個人の見解である)は

「その取材と報道により、社会正義であったり、社会への影響が十分に大きいと判断された場合であるならば、許可すると思う。」

ということであった。

上記の記事のように、会社役員の過剰な報酬など企業倫理を報道してきたマリッジ記者には英国の指導的立場にいる人を含む富裕層の男性たちのチャリティーの名を借りた不適切な行動を報道・告発する強い使命感と意志があったからこそ、潜入取材を敢行しその成果が社内でも評価されFT紙において大々的に扱われたのではないだろうか。

テレビ朝日記者が取材先の財務省幹部からセクハラを受けていた事件であるが、テレビ朝日の記者会見での説明によれば、彼女はこの件を報道することを望んだが、社内でその可能性を否定されたため(不適切な行為であるが)他社に情報を持ち込んでまで報道したとのことである。

様々な切り口を通じて企業倫理などを報じてきた取材活動の延長線上で自らセクハラがおこなわれている現場に潜入取材したマリッジ記者と、取材の過程でセクハラ被害にあったテレビ朝日の記者を比べることはできない。しかしある時点においてセクハラの事実を報道・公表しようと判断したということは、テレビ朝日の記者も「ジャーナリスト」として何か大切なことを我々に伝えたかったという面もあるのではないだろうか?

潜入という特別な取材手法を採る場合、新聞社に所属するジャーナリストはおそらく自分が伝えるニュースの社会的意義を考え、そして記者としての使命感と報道により発生する問題や困難を天秤にかけた上で記者として行動に出ると決断したと想像できる。

実際マリッジ記者の記事が及ぼした影響は行動を起こすに値するものだった。英国政財界の旧態依然とした不適切な側面を世に知らしめ、ビジネス界における倫理問題がまだ現代社会の価値観に追いつく必要があることを証明した。

本当に残念なことにテレビ朝日が報道を許可しなかったこと、そして今でも女性記者の口から直接説明する機会が与えられてないことにより、我々には記者が本当に伝えたかったメッセージが不明のままである。

個人的には今回の日本での一連のセクハラ問題は、若い女性をプロフェッショナルとしてでなく「若い女性」としか見れない・扱えない日本の古臭いが厳然として存在する悪しき風潮を象徴する事件であったと思う。今回明らかになったように英国でもセクハラの問題はいまだに存在している。しかし日英両国でのセクハラ問題が報道される過程の違いを通じて日本のジェンダー問題の根深さをより感じたのも事実である。

そしてこの問題を突き詰めていけば、今日の日本の社会にはセクハラの被害に逢ってるとまではいかなくとも、若い女性というだけでその能力を過小評価されたり、逆に過保護に扱われて必要な経験や責任を持たせてもらえないケースが多くあるのではないだろうか?我々の社会は女性や若者の潜在能力を十分に引き出すための意識改革が十分にできているのであろうか?

政治は制度改革や成長戦略を通じて、女性や若者の潜在能力を十分に引き出し生産性を向上させることを目指すべきである。社会全体の意識改革をおこなうというのは簡単ではない。しかし、政治家はこの重要な課題から逃げてはいけないであろう。知恵を結集し改善の方法を考えるべきである。


編集部より:このブログは与謝野信氏の公式ブログ 2018年4月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、与謝野信ブログをご覧ください。

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与謝野 信
証券会社勤務、TOKYO自民党政経塾生(第11期)

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