国家プロジェクトとしてのがん免疫療法の推進を!

2018年04月22日 06:00

今年のシカゴは冬が長い。4月に入って4度も雪があり、今朝の気温も1度まで下がった。来週も、最低気温が5度前後で東京の真冬のような天候が続きそうだ。例年なら、この時期には木々が緑色に色づくはずだが、真冬のような気候で緑の欠片もないままだ。出勤も、寒くてコートがなくてはとても歩けない。

そのような中、長い冬の時代が終わり、一気に真夏のような燃え上がる様相を示しているのが、がん免疫療法である。「Science Translational Medicine」誌(4月11日)に「Personalized cancer vaccine effectively mobilizes antitumor T cell immunity in ovarian cancer」という論文が掲載されていた。患者自身の卵巣がん細胞を利用して、免疫の活性化を図る治療法で、方法そのものは新しくない。樹状細胞と破壊したがん細胞のエキス(あまり科学的な表現ではないが、わかりやすく言い換えた)を一晩混合しておき、がん特異的抗原を表面に持った樹状細胞をリンパ節に注射する方法である。

一部の患者には、投与に際して、抗VEGF抗体(商品名:アバスチン)、あるいは、抗VEGF抗体+シクロホスミドを加えている。抗VEGF抗体は、がん治療薬として利用されているが、血管新生を抑えて免疫細胞が腫瘍組織内に入って行きやすくすることが期待されている。また、シクロホスミドは免疫抑制細胞の数や働きを抑えることが知られている。これらの薬剤も特に新しいものではなく、25名の患者のうち、腫瘍縮小が認められたのはわずか1例だけであった。

目新しい事は、ネオアンチゲン(遺伝子変異によって生じたがん特異的抗原)に反応するリンパ球が増えていたという事実だけである。今や、免疫療法については、この程度でも、ある程度のレベルの雑誌に掲載される時代だ。私がシカゴに異動した6年前、免疫療法はまがいものだという声が依然として強かったが、今や、猫も杓子も免疫療法の時代である。それにもかかわらず、日本では、「免疫療法」という言葉に強烈なアレルギーを示し、科学的な評価ができない人たちが少なからずいる。上記の論文も25例中1例であり、腫瘍が縮小した例は、抗VEGF抗体+シクロホスミドも投与されているので、腫瘍が小さくなったのは、ネオアンチゲンを標的とするリンパ球によって起こったのではなく、これらの薬剤が効いただけかもしれないと批判するだろう。

しかし、最近の科学的エビデンスを無視して、患者さんのがんい対する免疫能力を高める方法を完全に抹殺しようとするのは、医学の進歩に逆行する考えである。私は「白衣を着た詐欺師たち」は許せない。彼らが科学的に患者さんに接しているのではなく、金儲けのために接している態度は、医の倫理に反していると思う。しかし、それと免疫療法の全面否定は筋が違う話である。

患者さんの持つ、抗がん免疫能力をいかに高めるのかを世界中が競っている時代である。凛として、信念を持って、がん患者さんを助けようと免疫療法に取り組んでいる医師や看護師さんの気持ちを、心を折ってはならない。今の日本の免疫療法は、悪貨が良貨を駆逐しているような状況だ。馬鹿な医師たちが、それを後押ししている。5年後、10年後の日本はどうなっているのか、心配だ。日本のがん患者が、隣国にがん免疫療法を受けに行く。そんな姿は絶対に見たくない。

NHKの「坂の上の雲」は、「まことに小さな国が、開化期をむかえようとしている」というナレーションから始まった。まことに小さな国が、世界に伍する国になった。やればできるはずだ。ワイドショーのような国会議論をやめて、国の将来や病気で苦しんでいる人たちのために真剣な議論ができないものなのか。情けない限りだ。国の総力を持って、がん免疫療法に取り組み、日本から世界にがん免疫療法を発展させていく、こんな決断ができないものなのか!

「わたしは信じる 新たな時がめぐる
凛として旅立つ 一朶の雲を目指し」


編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2018年4月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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中村 祐輔
医学者、内閣府SIPディレクター

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