日本初の障害児保育園、初めての卒園生が私たちに教えてくれたこと

2018年04月25日 06:00

2018年3月、障害児保育園ヘレン荻窪で、ひとりの女の子の卒園式が行われました。

お子さんの名前は、平井あけびちゃん。2014年9月の荻窪園の開園とともに入園し、それから3年半、ヘレンに通ってきました。

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卒園式では、ヘレンの保育スタッフ、看護スタッフ、園長、そしてヘレンのお友達やその親御さんにもお祝いされ、大きな喜びと少しの寂しさで、涙、涙の式となりました。

あけびちゃんの卒園に寄せて、お母さんの平井さん、ヘレン荻窪の園長遠藤にお話を聞きました。

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2014年の9月、ヘレン荻窪の立ち上げ・開園と同時に入園したあけびちゃん。初めて障害児の福祉、それも前例がない長時間保育という分野に初めて取り組んだフローレンスと障害児保育園ヘレン。

そんなヘレンにあけびちゃんを預けることに、お母さんも「最初はやっぱり不安のほうが大きかったですね」といいます。

それでもヘレンに預けることに決めたのは、仕事もしなければならない環境の中で、あけびちゃんへの関わり方に悩みがあったから。

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平井さん障害がある、医療的ケアもある子を、保育園に預けていいのかなっていう思いもあったりしました。

でも仕事もしなければいけないし、勤め先は身内の会社なので、連れて行くことはできるんですけど、DVDとかをずっと座って見させるみたいな感じになるし。家に帰れば双子の妹とお姉ちゃんもいるので、「あけちゃん、ちょっと待っててね」と声をかけるばかりで、あまり手をかけられなくて。

だから、他の人の手に託してみるのもありかなって、預けるのを決めました。

ヘレンに入園後、最初はなかなか慣れず、朝、お母さんと別れるときにはよく泣いていたというあけびちゃん。

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しかし、ヘレンに通い、保育者との信頼関係が作られていくと、あけびちゃんは変わっていきました。

平井さん:嬉しかった最初の思い出は、「お返事をしました」って聞いたとき。

名前を呼ばれて、手を上げるのはできたんですけど、それだけじゃなくて、声を出して応えたっていうのが、すごい衝撃で。そんなタイミングで、ちゃんと声を出してくれるんだって。

家でも手足を動かすっていうのはありましたけど、こちらが言ったことに「あー!」って大きな声を出すようになったのは、すごい衝撃でしたね。「できるんだ!」っていう。

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平井さん:なんとなく、なにもできないんじゃないかって、私はちょっと諦めの気持ちもあったので、それが少しずつ、できるようになっていって。

今では、食事の注入が終わったのを教えてくれるようにまでなりました。

特に、2016年春にクラスを移って、保育者や友達との関わり方が変わると、あけびちゃんはさらに積極的になっていきました。

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ヘレン荻窪園長の遠藤は、「あけびちゃんのヘレンでの生活を思い返すと、心が成長し、意欲が伸びたなと思います」と振り返ります。

遠藤:最初は自信がなくって、ちょこんと座っている感じの子だったのが、今は「私を見て!」という感じです(笑)

クラスが変わって、おともだちからの刺激を得ることで、自分でやってみたいって思いが育ってきて、それがうまくできて、また自信になって、次はもっと頑張ろうって思えるようになって……その繰り返しで今のあけびちゃんがいるのかなと思っていて。あけびちゃんは本当に変わったよねって、みんなで話してます。

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保育者や友達との関わりのなかで、「こうすれば身体が動くんだ」「自分にはこんなことができるんだ」ということがだんだんわかってきたあけびちゃん。

そんなあけびちゃんの変化と成長の背景には、ひとりひとりの子どもに寄り添いサポートする、ヘレンのスタッフのさまざまな工夫もありました。

遠藤:あけびちゃんは、お腹についた胃ろう(※)からご飯を食べています。

ご飯を食べるときの注入ボトルの吊るす位置を、あけびちゃんから見える位置に変えたんです。もともとは椅子の後ろ側についていたんですけど、そうするとあけびちゃんから見えない位置なんですね。

それを、保育スタッフが、ご飯を食べてるのを自分で分かるように、前にしたらどうかってアイディアを出してくれたんです。

※胃ろう:何らかの理由で食べ物を口から食べることが難しい場合に、お腹に小さな穴を開けてチューブを通し、食事を注入すること

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写真上の方にあるのが、食事の注入ボトル

遠藤:それでお母さんと相談して、前に変えました。あけびちゃんからボトルが見えるので、自分が何を食べているのかという意識や、お腹の中に食べ物が入っていく意識がつきやすくなったと思います。

他のお友達が、空になったお弁当を誇らしげに見せて、みんなに褒められているのと同じように、あけびちゃんもボトルが空になったらみんなで褒めるようにしました。「空っぽになったら先生を呼ぼうね」と声をかけて、一緒に呼ぶようにして。

そのうち、自分でボトルの残量を気にするようになり、お返事で声を出すのと同じように、大きな声で先生を呼ぶようになりました。

自分で呼んだ声で先生が来て、「(ボトルの)空っぽ、すごいね」とみんなの前で褒められることがとても嬉しかったようです

「たぶん、自分のうちで生活してたら、そういう発想もなかったですね」と平井さん。

平井さん:家だったら、食事も、日々の生活の流れの一環で終わってしまっていたと思います。今では、私の手に自分の手を添え、お手伝いをするようになりました

家だと生活の一環で流れちゃうことが、ヘレンで先生たちがいろいろやってくれたことで、本人も食事のお手伝いが楽しみの一つになっているみたいです。

生活のひとつひとつの場面で、そんなことわかるんだ!できるんだ!みたいな、いろんな発見ができましたね。たぶん、親だけじゃ気づかなかったものだと思います。

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ヘレンで、お母さん・お父さんとは違う大人たちにサポートされ、そして同じ部屋で過ごす友達からたくさんの刺激を受け、あけびちゃんの「自信」は伸びていきました

平井さん:おうちだとおとなしい子だったんです。きょうだいもうるさいし、私もそこまで丁寧に相手もできないし。あけちゃんはおっとりした子ですって、私はずっと言ってたんですけど、ヘレンに通うようになってかわりました。

遠藤:自信に満ち溢れてる子です。ああ、寂しくなるなあ。

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そんなあけびちゃんも、この4月から特別支援学校に通い始め、新しい環境に足を踏み出しました。

ヘレンの3年半で得たものが、あけびちゃんとご家族のこれからの生活を、何かのかたちで支えていければ、これほど嬉しいことはありません。

そして、ヘレン第一期生として、開園からずっと通い続けてくれたあけびちゃんとそのご家族から、ヘレンのメンバーが学んだものも、たくさんありました。

遠藤:ヘレン開園から一緒にヘレンを作って来てくれたあけびちゃんと、そしてお母さんの平井さんが卒園していくことはとてもさみしいです。1人ひとりスピードは違えど、子どもたちは一歩ずつ成長していくことを、あけびちゃんが教えてくれました

私達大人が思っている以上に、子ども達は力を持っていて、その力をどう伸ばしていけるかが、ヘレンでの仕事のやりがいや楽しさだと思います。

私達スタッフはこの3年半であけびちゃんに、「ヘレンの先生」に育ててもらいました

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ヘレン開園時からのスタッフと

日本初の障害児保育園であるヘレン荻窪は、開園からこれまで、さまざまな困難にぶつかりながら、どうにか走り続けてくることができました。

ヘレンがいくつもの壁を乗り越えてきた荒波の3年半の中で、保育の中でその可能性を花開かせ、スタッフにたくさんの元気をくれたあけびちゃん、そしてヘレンを「クルー(同じ船の仲間)」として支えてくださったお母さんの平井さんの存在は、とても大きなものでした。フローレンススタッフ一同、感謝の気持ちでいっぱいです。

これから新しい世界に進んでいくあけびちゃん、これまで本当にありがとう。フローレンスはあけびちゃんのことを、これからもずっと応援しています。

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編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2018年4月24日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。

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駒崎 弘樹
認定NPO法人フローレンス代表理事

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