金正恩氏と文在寅大統領の「舞台劇」

2018年04月28日 08:30

朝鮮半島の非核化を確認した「板門店宣言」に署名した金委員長と文大統領(南北首脳会談プレスセンター提供、2018年4月27日)

体制、国体の違いはあるが南北両国民はドラマが好きだ。北の国民は韓国のTVドラマを密かに観、韓国民は南北分断の痛みを抱える民族の主人公になった気分でドラマを観、また自身も演じる。ドラマは演出家と俳優が心を合わせて舞台作りをすれば、それを見る人々を感動させ、笑いと涙を誘うものだ。

ひょっとしたら、南北首脳会談も同じように一幕の舞台劇だったかもしれない。ただし、18年前の初演や11年前の再演との違いは、3回目の今回は、演出効果を計算した様々な書割がこれまで以上に工夫されていたことだ。

文在寅大統領は27日の舞台のため数日間、大統領府に閉じこもって綿密に準備してきた。首脳会談で署名された「板門店宣言」の文面だけではない。例えば、歴史的な南北首脳会談の会議場となる板門店の韓国側「平和の家」に飾る花についても、「会談場を飾る花は『花の王様』と呼ばれるシャクヤクと友情の意味を持つハナズオウ、平和という花言葉を持つデイジー、軍事境界線を挟む非武装地帯の一帯に咲く野花と済州島の菜の花を使う。韓国的な美しさを表現し、繁栄の意味を持つタルハンアリと呼ばれるつぼに飾られる」(聯合ニュース電子版4月25日)といった具合だ。また、韓国大統領府が事前に公表した首脳会談での夕食会の食事メニューをみてほしい。凝りに凝っていた。

一方、もう一人の主人公、金正恩朝鮮労働党委員長は27日のためどのような準備をしてきたのだろうか。朝鮮中央通信は何も報じていないが、金正恩氏もきっと文大統領に負けないほど多くの時間を費やして“この日”を迎えたはずだ。

それは金正恩氏の会談冒頭のメッセージからも推察できる。曰く「平和繁栄、北南(南北)関係の新しい歴史が刻まれる瞬間に、こうした出発点に立ち、のろしを上げる気持ちでこの場に来た」(世界日報電子版)と語ったのだ。敵陣に乗り込んできた若大将といった高調した気分が伝わってくる。この台詞を考え出すまで、金正恩氏は多分、かなりの時間を費やしただろう。いずれにしても、舞台照明や書割が華やかであればあるほど、演じる俳優も観客も一種のハイ状況に陥り、舞台で展開される世界にすんなりと入っていくことができるわけだ。

文大統領は会談冒頭で、「この10年間できなかった話を十分したい」と述べた。実際、文大統領と金委員長は会議場だけではなく、30分余り外で2人だけになって話し合っている(その内容は公表されていない)。そして両首脳は午前と午後の2回、協議した後、朝鮮半島の非核化を確認する一方、年内に終戦宣言し、平和協定を締結することで合意した共同宣言「板門店宣言」に署名した。

韓国と北朝鮮の間では過去10年間、多くのテーマが山積している。1日の首脳会談では煮詰めた話は難しいから、各テーマ毎に作業グループを創設して今後、協議を重ねていくことになる。その意味で、今回の南北首脳会談では、実質的な成果を実現することより、今後の舞台作りのための大雑把な合意を達成することだった。その狙いは一応実現した。もちろん、「宣言」内容の履行段階で多くのハードルが横たわっていることは言うまでもない。

第3回南北首脳会談後、5月末から6月初めには米朝首脳会談が控えている。米朝首脳会談は文字通り歴史初の政治イベントだ。それだけに、朝鮮半島の行方に大きな影響を及ぼすサミット会談の舞台に初出演するトランプ米大統領のボルテージを高めなければならない。文大統領にとって南北首脳会談ではハードな議論を交換するより、南北間の融和を演出してワシントンに発信することが重要だった。一方、金正恩氏にとっては本番を控えて一種のウォーミングアップだったかもしれない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年4月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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