トルコとギリシャの武力衝突が起きるかもしれない

白石 和幸


昨年12月に会談したトルコ・エルドアン大統領(左)とギリシア・チプラス首相だったが…(EL PAISツイッターより)


ギリシャとトルコの間でまた緊迫する事件が4月9日に起きた。エーゲ海のギリシャ領土のロー島(Ro)の領空を侵犯にしたトルコのヘリコプターにギリシャ軍は警告発砲した出来事である。その前日8日にもトルコの戦闘機F-16が2機、ギリシャの領空を30-40分の間に2度侵犯してアテネの領空近くまで接近した。先月にはギリシャ軍兵士2名がトルコとの国境エディルネ県で気象状況の悪化で間違ってトルコ領土に侵入してしまい軍事スパイ行為だとしてトルコ当局に拘束された。

これらの出来事は歴史的にこれまで両国の間で4度の戦争を経験したことを思い起こさせる要因となっている。すなわち

①1821-8132年のオスマントルコからのギリシャ独立戦争

②1897年のクレタ島をギリシャ領土にする戦争

③1912-1913年のバルカン戦争

④1914年からの第一次世界大戦に参戦

という4回にわたり両国の間で戦争をしているのである。

益々独裁色を強めているレジュップ・タイイップ・エルドアン大統領の強権政治からギリシャとトルコがまた武力戦争を起こすのではないかと懸念されている。

更に、トルコはギリシャと歴史的に関係の深いキプロスに侵攻して1975年に北キプロス・トルコ共和国を樹立させた。

両国ともNATO加盟国同士であるにも拘わらず、両国間で緊張の緩む時がないのである。

そして、この次にトルコが狙っているのはエーゲ海にあるギリシャの島々を自国領土にすることだと噂されている。

つい最近もエルドアンは「エーゲ海とキプロスの領海線を踏み越えた者に告げる。君たちが勇敢でいられるのは我が軍の兵士、軍艦、戦闘機を見る時までだ。(イラクの)アフリンが我々にとってどういう結果になろうと、エーゲ海そしてキプロスにおける我々の権利は同じだ」と述べて、エーゲ海に浮かぶ島々を自国の領土にする意向があることを仄めかしているのである。

エルドアンの意向に野党の共和人民党(CHP)の党首ケマル・クルチダルオールまでも同調して、「2019年に選挙に勝利した暁には、ビュレント・エジェヴィット元首相が1974年にキプロスを侵略したように、エーゲ海の18の島に侵入して征服するのだ」と発言して歴史上起きたギリシャとのエーゲ海の島々の領土分割に不満を表明している。

トルコの与野党の間ではエーゲ海の島々は歴史的にトルコ領土だと見做しているある。だから、強権政治を実行しているエルドアンのトルコとギリシャとの間で武力衝突が起きるのではないか懸念されているのではなく、それが起きるのはWhenかという見方をしている専門家もいるという。両国間で武力衝突が起きるのは必然だと見ているのである。

昨年12月にエルドアン大統領が1952年以来トルコ元首として65年振りにギリシャを訪問。その時にも、エルドアンはギリシャのパブロプロス大統領とチプラス首相に第一次世界大戦後のローザンヌ条約の見直しをすべきだという要望を伝えるという場面があった。勿論、ギリシャ側はその必要はないとしている。

この条約は第一次世界大戦終了後の1923年にパリで行われた講和会議で、英国らがギリシャに味方してエーゲ海諸島の大半がギリシャに割譲されたのであった。トルコではその合意内容に現在も不満を表明している。

しかし、この領土問題についてはエルドアンがトルコの政界に登場するまで、国際的な問題にまで発展してはいなかった。それはトルコが1960、1971、1980、1997と軍部によるクーデターを起こしたりで、トルコの国際舞台における重みがなかったからであった。

ところが、エルドアンが2003年に先進的な民主国家を目指すとして首相に就任してからトルコ外交が徐々に国際舞台で注目を集めるようになったのである。

それはオスマン帝国の崩壊のあと、その遺産を受け継ぐかのように1920年にムスタファ・ケマル・アタテユルクがトルコを建国して発展させた歴史を彷彿させるかのようなエルドアンの登場であった。

エルドアンは首相として四期目を務めることができないことから大統領に就任した。そして、トルコ政治を議会制から大統領制に切り換えることを決めたのであった。この時点からエルドアンは独裁色を更に強める政治を行うようになり、当初彼が主張していた世俗主義からイスラム主義に方向転換もするのである。

そして、国内で彼の政治に批判的なメディアには言論統制を敷いて批判的なジャーナリストを逮捕したり、彼と思想的に対立している思想家ギューレン師の官僚や司法界での信奉者の多くの職務を解任させたりしている。正に、専制君主になりつつある。エルドアンの目指すものはトルコの建国の父ムスタファ・ケマル・アタテユルクの後継者としてトルコ建国100周年の2020年まで最低でも政権を継続させることなのである。

ところが、最近になってエルドアンは前倒し総選挙を6月に実施する事に決めた。理由は色々と憶測されているがトルコ経済が後退していることと、彼が率いる公正発展党への支持が衰えているのを食い止めるのが主な狙いのようである。この選挙の結果次第で、ギリシャへの取り組みに変化が見られるかもしれない。