板門店「徒歩の橋」会談を読み解く!

世界の耳目が集まった南北首脳会談が27日、韓国の文在寅大統領と金正恩朝鮮労働党委員長の間で行われ、同日午後、「朝鮮半島の完全な非核化」を確認する一方、年内に朝鮮動乱後の休戦状況から終戦条約を締結し、関係国で平和協定を結ぶ方向に努力することを明記した「板門店宣言」が両首脳によって署名された。文大統領と金委員長はその後、記者団の前に現れ「板門店宣言」の内容を報告した。

▲「徒歩の橋」で会談する文在寅大統領と金正恩委員長(南北首脳会談プレスセンター提供、2018年4月27日)

▲「徒歩の橋」で会談する文在寅大統領と金正恩委員長(南北首脳会談プレスセンター提供、2018年4月27日)

「板門店宣言」は具体的な内容には乏しく、南北首脳の決意表明といった印象を与えるが、致し方がないだろう。米国を含む周辺国の関与なくして南北両国は朝鮮半島の行方を決定できない、という現実を改めて浮き彫りにしただけだ。その意味で、6月初めまでに開催予定のトランプ米大統領と金正恩氏との米朝首脳会談こそ本番というわけだ。

南北首脳会談で興味を引いたことは、文大統領と金正恩氏が約40分間、板門店の「徒歩の橋」のベンチに座り、側近もつけず、2人で会談したことだ。テレビのカメラは遠く離れたところから両者の会談姿を捉えるだけで、マイクがないので会話の内容は掴めない。韓国大統領府も北側も両首脳の30分間の会話について公表する予定はないという。

板門店の「徒歩の橋」の会談内容が公表されないことから、メディア関係者の関心を一層駆り立てる結果となり、様々な憶測報道が既に報じられているほどだ。
「徒歩の橋」会談はホスト側の文大統領が誘ったものだろう。文大統領には、第3者の介入がない状況下で金正恩氏と話したかった問題があったことを推測させる。映像では文大統領が語り、金正恩氏が頷きながら聞いているのが映し出されていた。

文大統領は多分、英俳優ジョニー・リ・ミラーが演じるシャーロック・ホームズの話を描いた米CBS犯罪番組「エレメンタリー」(Elementary)を観たことがないだろう。シャーロック・ホームズは離れたところの会話をその話し手の唇の動きから読み取る能力を持っている。通常“読唇術”ないしは読話と呼ばれる技術だ。

そこでCNNの首脳会談中継放送のフィルムから「徒歩の橋」の40分間の会談内容を読み解くために、金正恩氏の唇の動きに集中した。文大統領は後ろ姿なので唇を読むことは出来ないが、金正恩氏の答えから文大統領の質問が何かが薄々理解できる。

以下の4点は「徒歩の橋」の会話を読唇術で読解した範囲だ。言語の違いもあって、当方の一方的な解釈がかなり含まれていることを最初に断っておく。

①文大統領は会談始めに北の非核化への真剣度をやんわりと確認した。金正恩氏は笑みを見せながら「板門店宣言」で明記された内容を繰り返した。
②文大統領は米朝会談への金氏のスタンスについて聞いている。金氏はかなり楽観的な見通しを述べた。文大統領はトランプ氏が気分屋でその出方が予測できない指導者だと説明し、「トランプを怒らさな方がいい」と助言している。
③文大統領が金正恩氏に「訪中ではどのような合意があったか」をしつこく聞くと、金正恩氏は少し嫌な顔を見せた。金正恩氏の唇の動きは止まった。
④文大統領は対北経済支援について、北側の願いを尋ねた。金正恩氏は気分を戻し、何か答えている。文大統領は頷く。

ところで、「板門店宣言」に日本人拉致被害者の帰国問題について全く明記されていないことに日本側で失望が広がっている。文大統領は安倍晋三首相に日本人拉致問題にも言及すると約束したが、日本人拉致被害者問題はトランプ大統領が言及すると約束したことを受け、金正恩氏との会談では避けたのではないかと好意的に受け取られている。
真相は少し違うのだろう。「日本人拉致被害者の帰国が実現すれば、安倍晋三首相の自民党政権の延命を助けることにもなる」と助言した側近の要請を受け、日本人拉致被害者問題については語らないことにしたのではないか。

いずれにしても、「徒歩の橋」の会談内容について文大統領が口を閉ざし続けたとしても、北側が明らかにする日がくるだろう。その時、文大統領の名誉が傷つくような事実が暴露されないことを願うだけだ。政治家のひそひそ話は、やはり一般的に“きな臭い”ものが多いのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年4月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。