こども宅食のデータで判明:子どもの貧困問題解決に大事な4つのこと

先日、文京区の一支援を必要とする世帯に対し食品を届ける「こども宅食」について、初年度の成果報告記者会見を行いました。

「こども宅食」では、食品を届けるだけでなく、食品を届けることで信頼関係を構築し、LINE等のICTツールで繋がり合い、リアルタイムに近い形で、経済的に支援が必要な世帯のニーズを掴んでいく仕組みを構築しつつあります。

今回はアンケートを通じ、文京区史上で初めて、経済的に支援が必要な世帯の調査を行うことができました。

既にメディアでは以下のように丁寧に報道頂いています。

東京の真ん中でも、ご飯が食べられない。調査から見える子どもの貧困(バズフィードジャパン)

「こども宅食」の成果 初報告、苦しい生活の実態浮き彫り(TBS)

子どもの貧困の第一人者が高く評価する「文京区こども宅食」 区長「お米(コメ)処分しないでぜひ寄付を」(井出留美氏・ヤフーニュース個人)

ですが改めて「こども宅食」コンソーシアムリーダーである私からご報告いたします。

なお、本記事にはデータとともに考察を付けますが、それはあくまで私個人の見解であり、文京区や他の団体を代表するものではありません。

【こども宅食のスキーム】

こども宅食は、協力企業から食品を寄付して頂き、対象家庭に配送します。事業の原資は、ふるさと納税です。こども宅食は文京区のふるさと納税の対象プロジェクトとなっており一般予算からの支出はありません。

「LINEでの申し込み」というイノベーション

事業開始初年度の17年度は、150世帯に配送しました。

一方で、申込数は対象世帯1000世帯のうち、450世帯から来ました。

近隣区の子どもの貧困関連事業の申し込み率が15%程度だったことから設定した150枠でしたが、実際はその3倍もの問い合わせが来ました。

その理由は、申し込みを「チラシにQRコードを入れておいて、読み込むと宅食LINEアカウントと繋がり、申し込みフォームのURLが送られてくる」というフローにしたことにあるのではないか、と考えています。

「こども宅食」LINEでの申込が想定の3倍!申込総数458件のうちLINEが351件(プレスリリース

事業開始前の対象世帯ヒアリングの際に、お困りごとを聞いた際に、既に区では支援メニューが用意されているのに、それを知らない、という事例が散見されました。

深掘りしてみると

「行政の紙の資料は、字が多くて、なかなか…」

「平日に申請書を出しに行くのは手間で…」

という意見がありました。

この支援メニューと申請の間の「ラスト5センチ」を埋めるのに、LINEのようなICTツールは効果を発揮する、ということが実証されました。

LINEなら、その後も繋がり続け、こちらから情報を発信したり、逆に困りごとを送ってもらったり、とリアルタイムなコミュニケーション回路を持つこともできます。

これは、「こども宅食」に限らず、様々な社会福祉サービスに移転可能なノウハウではないかと思います。

「申し込みをLINEでもできる」

すごく地味で小さなことですが、こうしたことが福祉の生産性を上げられるのだとしたら、やらない手はないように思います。

「こども宅食」が障害者の就労訓練に

利用者の声


調査の概要

通常、こういう貧困対策は「良いことやった」で終わってしまうのですが、「利用前・後」、「利用者・非利用者」でアンケートを行い、データをしっかりと取りました。データがあることで、新たな問題発見と、手法の改善に繋げられるためです。

今回の2回のアンケートの回答率が、非常に高いのが特徴的です。

おそらく、何も関係性の無いところにアンケートを送っても、回答率は非常に低かったと思われます。食品の配送によって関係性が構築されたことによって、アンケートで声を集めやすくなり、それがリアルタイムな状況把握ツールになって行くことができる可能性を示唆しています。

こども宅食の利用者はどのような人たちか?

東京都の一般的な中学校2年生のいる世帯に比べて、精神的な負荷が高い状況が分かりました。

セグメント化すると見えてくるもの

「ひとり親世帯」と「三世代同居世帯」はかぶっていることが多いので、生活課題の捉え方もほぼ近似していました。

多子世帯は収入の次に、住居の問題が来るのが特徴的です。

また、病気病歴世帯は、収入・生活費の問題の前に、自身の病気や障害についての悩みが大きく、また収入と子育てに対する課題感が、その他のセグメントに比べ非常に大きいことが分かります。

セグメントごとのフリーコメントです。

ひとり親世帯は就労の問題、慢性的に疲れていることや離婚にまつわる精神的な圧迫感が吐露されています。

三世代同居世帯は、子育てと親の介護が同時に来るダブルケア問題について不安を感じています。

多子世帯は生活費や教育費負担について言及。また「引越しも考えるが、お金がないので引っ越せない」という意見も。

よく「そんなに生活が苦しければ、地方に行けば」等ということを言う方もいますが、現実はそんなに簡単な話では無い、ということもわかります。

病気病歴世帯からは、病気→就労できない→経済力低下という連鎖が見てとれます。また、ひとり親で入院した場合、子どもが家から離れた児童養護施設に行かざるを得ず、子どもの勉強が遅れてしまう問題なども発生していました。

病気・病歴世帯は特に精神的負荷が高いのではないか

セグメント分けして得た知見として、病気病歴世帯の精神的負荷の高さです。

心理的ストレス反応は一般世帯の約2倍。気分・不安障害相当は一般世帯の3倍強で、宅食対象世帯全体と比べてもとても高い状況です。

「経済的にできない」と感じることでも、一般世帯の何倍もの割合になっています。特に年に1回の家族旅行については、9割の世帯ができない、と答えています。

金銭的効果と精神的効果


当初は栄養状況などが改善するかと期待していましたが、そうした効果は限定的であったことが見てとれます。

2ヶ月に1回の宅食によって、利用者は1ヶ月の節約金額を平均3,710円と感じていました。

平均月3,710円の節約は、一見、家庭に影響がないように思えます。しかし、経済的に支援が必要な家庭では、その金額が与えるインパクトは一般家庭が持つ意味とは異なる部分もあるのではないか、と考えています。

たとえば、上記のほかにも「定期的に通院できるようになった」という声があがるなど、中には継続的に支援を続けることで、今後の人生を左右するようなものもありました。

また、僕が配送に行った家庭では、光熱費の節約のために、電気を消して真っ暗な中で生活している家庭もあり、もともと切り詰めて生活していたからこそ、節約額が少ないのではないかと考えています。

宅食を通じて、「気持ちが豊かになった」という人が半数近く、4分の1の家庭が「社会とのつながりを感じられるようになった」という意見でした。

実際、アンケート調査だけでなく、配送後にLINEに寄せられたメッセージでも「自分のことを思ってくれる人がいることが嬉しい」「お菓子をもらえたことで、子どもが友達を家に呼べるようになった」という声もあがっています。

例えばこれが同額の現金を振り込んだ場合、同様の心理的な安心感・充足感を与えられるのかどうか。

もしかしたら、食品が届き、人の顔が見える、ということが繋がりや安心感に繋がったのかもしれない、という仮説を持ちました。

もし顔の見える支援が、より心理的負荷を下げるとすると、社会福祉予算の使い方を単に現金給付にするだけでなく、対面支援と組み合わせる等、色々な可能性があるように感じました。

そして、その節約されたお金で、生活必需品や食料、子どものために使っています。

よく「貧困世帯支援をしても、親がパチンコに使うだけ」というような批判がありますが、こども宅食における調査からは、無駄遣いはしていないことが見てとれます。

見守り効果の可能性

今回は紙のアンケートでしたが、LINE等のICTを活用したアンケートを定期的に取ることによって、DV等の深刻な状況の変化に早めに気づけることは、大きな意義があると思いました。

こうした情報を発見した場合、文京区の適切な専門機関に繋げましたし、また今後も情報を共有していきたいと思います。

まとめ

「こども宅食」で集めたデータから分かった、子どもの貧困問題解決にとって大事なポイントを4つにまとめます。

まず、子どもの貧困対策を行っていく場合、「貧困層」として捉えられがちですが、ニーズにばらつきがあるため、施策や政策に落とし込む場合は、もっとブレイクダウンしてニーズを捉えていくと良いのではないか、ということが示唆されました。これが1つ目。

また、その中でも「病気・病歴世帯」は抑うつ度も高く、重篤化するリスクが高いため、プロアクティブな支援が必要ではないか、という仮説が導けます。これが2つ目。

更には、通常の現金支給などと「こども宅食」が異なるのは、配送によってタッチポイントが生まれることですが、それが予想以上のポジティブな心理的効果を生んでいることが分かりました。何らかの方法での、他者とのリアルなタッチポイントの重要性。これが3つ目です。

ただ、これが初年度であるため、今後同じような心理的効果を生み続けるのか、どこかで低減していくのか、ということはアンケートを取り続けて検証していきたいと思います。

最後に、このような経済的課題を抱える層への定期的アンケートは、これまで行政でされてこなかったものですが、定点観測によって何か事が起きてから社会資源が動員される「事後的福祉」から、事が起きる前に支援をコーディネートする「予防的福祉」に繋げられる可能性が示唆されました。これが4つ目です。

個人的な感想

最後に簡単に。

まずデータについては、当初考えていた結果通りのものもあったり、それを裏切るものもありましたが、取って良かったと思いました。

特に病気病歴世帯の深刻度合いについては、支援の現場で何と無く感じていたことだったので、その体感値がデータによって(まだ仮設段階ですが)可視化されたと思います。

だとすると、現在別個に存在し、深い溝のある、医療と福祉がもっとシームレスに繋がっていかなければいけないな、と。

例えば精神科のクリニックにかかっていた場合、薬は出されますが、その患者さんの地域にある社会資源と繋げられることは無いわけです。

しかし、医療的な処方箋だけはなく、「社会的処方箋」として、地域のNPOや福祉相談窓口担当者を紹介するような連携ができれば、もっと良いのに、と。

他にも色々とありますが、長くなりすぎてしまうので、別記事で発信して参りたいと思いまう。

取り急ぎ、記者会見内容の報告でした。

(発表資料などは後ほど「こども宅食」WEBでダウンロード可能なようにしていきます)


編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2018年5月1日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。