韓国企業がサリン原料をシリアに?

スイス・インフォは先月25日、フランス語圏のスイス公共放送(RTS)の情報として「スイス政府が2014年、猛毒ガス・サリンの原料となる化学物質イソプロパノール(イソプロピルアルコール)をシリアに輸出許可を与えていたことが分かった」と報じた。

▲オランダのハーグのOPCW本部(OPCW公式サイトから)

▲オランダのハーグのOPCW本部(OPCW公式サイトから)

イソプロピルアルコール(IPA)は無色、揮発性の液体で、引火性が大。工業原料や溶剤、香粧品、医薬品の合成原料として用いる。最近では、イソプロパノールはシリアのアサド政権が使ったとみられる化学兵器用ガスの主要成分だ。

シリアが化学兵器禁止機関(OPCW)に加盟した2013年以降、イソプロパノールはシリアへの輸出には許可が必要となった。OPCWは14年5月、シリアが120トンのイソプロパノールの備蓄を廃棄したと発表したが、その6カ月後、スイス企業はイソプロパノール5トンをスイス当局の反対を受けることなく輸出していたわけだ。
欧州連合(EU)は、シリアのアサド政権に対し厳格な制裁措置を実施し、化学物質の輸出を禁じている。イソプロパノールは、13年7月にEUの輸出禁止対象に入った。

欧州諸国でシリアにイソプロパノールを輸出してきたのはスイスとベルギーの2国だけ。日本経済新聞によると、ベルギーの3企業は先月、2014~16年の間シリアと隣国レバノンにサリンの原料となる物質計168トンを無許可、無申告で輸出したとして、ベルギーで刑事責任を追及されているという。

ところで、国連の貿易資料によると、欧州以外ではレバノン、アラブ首長国連邦のほか、韓国が主な輸出国だという(スイス・インフォ)。
大韓貿易投資振興公社(KOTRA)のベスト商品には韓国製の「使い捨て消毒綿」が紹介されている。エタノール、イソプロパノール液が吸着されている白色の脱脂綿と不織布で、 皮膚や創傷部位の消毒、医療用具の消毒が可能だ。

アサド政権は、①2013年、サリンガスを使ってグータを攻撃し、多数の死者が出た(その直後、アサド政権は化学兵器の保有を認め、その破棄に同意した)、②OPCWによれば、アサド政権は昨年4月にイドリブ県ハーン・シャイフーンで80人以上が死亡した攻撃でサリン神経ガスを使った、③同年2月末、首都ダマスカス近郊にある反体制派拠点の東グータでは塩素ガスを使用、④4月7日には、シリア首都ダマスカス近郊の東グータ地区ドゥーマで再びサリンを含む化学兵器を使った。それを受け、米英仏の有志連合軍は先月14日(現地時間)、シリアに制裁攻撃を加えたばかりだ。

ちなみに、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会専門家パネルがまとめた最新報告書によると、北朝鮮はシリアに化学兵器の製造に使用可能な特殊なタイルなどの物資を送っていた。90年代には、北朝鮮は化学兵器をシリアに販売、サリン製造施設を支援したという。
ただし、韓国企業が化学兵器の製造に使用できる化学物質(デユアル・ユース品目)をシリアに輸出してきた可能性についてはこれまで余り知られていない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年5月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。