オペ室のフィジシャン・アシスタント(PA)って何?前編

日米で異なる手術体制(※画像はイメージです=写真AC:編集部)

米国の臨床現場で、日本で働いていた時と大きく違うなと思ったのが、フィジシャン・アシスタント(PA)の存在です。PAという職業の定義はよくわかりませんが、僕がわかる範囲でいうと手術室で助手や簡単な手技をしたり(Operation Room PA=ORPAと言ってます)、病棟で患者管理をしたり、外来の手伝いをしたりしてる人達です。要はフィジシャン(医師)の仕事をアシスト(助ける)してるということです。今回は僕がよく接するORPAの話です。シカゴ大学には現在4人のORPAがいます。

ジョン・Gは白髪で恰幅のいい最も紳士的なPAです。彼は優しく、気が利いて最強のPAです。彼が一人いるだけで、おそらくどんなに難しい手術でもなんとか完遂できるような気になれます。もちろん、技術で言ったら僕なんかより格段に手術が上手です。

彼がすごいのは、恐ろしく高い技術と心臓外科疾患に関する知識を持っているのにもかかわらず、決して術者に対して不満などを言わず、黒子に徹し圧倒的なサポート力を注いでくれるところです。シカゴ大学から誰か一人だけ連れていっていいよと言われたら、間違いなくジョン・Gを引き抜くと思います。あるいは、可愛い麻酔科レジデントのティファニーを引き抜きます。

ジョン・Sはお調子者です。年はジョン・Gと同じくらいで技術もかなり高いですが、多少自由気ままなところがあります。今は慣れましたが、割とシリアスな状況でも、術野から離れたと思ったら流れてる曲に合わせて歌いだしたりしてます!?

手術室で助手をしている人が歌うなんて日本では考えられないことですよね、特に緊迫した場面では。日本ではシリアスな状況になったらあんまり関係なくても皆その空気感を共有し、というか共有しないと「こいつは協調性がないな」とか思われてしまいがちです。それが結構ストレスだったりするのですが、それがない自由さ、というか他人にどう思われようと気にしない感が米国のいいところであり悪いところでもあるのかもしれません。僕は結構好きです、手術室で勝手に歌いだす人。しかも、結構いっぱいいます。

ティムは最も若手のPAです。イケイケの若手外科レジデントみたいな感じで、隙あらば開胸、第一助手などの手技をやろうとしています。僕は別に開閉胸とか率先してやりたいわけじゃないですが、時に手技のとりあい?みたいになることもありました。

僕は手術が早く終わるようにできることはなんでもしようと考えているので、手術前後の準備もできるだけ早くしようとしています。なので、術前の準備も本来はPAの仕事ですが、積極的に手伝って早く終わらせるようにしています。ティムに一度、「そういうところが俺ら(PA)がヒロのこと好きな理由だぜ」と言われました。英語や技術力が足りないときでも、そういった細かい仕事に向きあう姿勢みたいなところは確実に見ている人がいて、評価してくれているのだな、となんだかうれしくなりました。基本的には早く終わらせたいだけなのですが。

マッケンジーは同い年の女子PAでロボットの助手を担当しています。彼女はロボット専属でおそらくここ2年くらい静脈とかをとっていないと思います。主にロボットのアーム交換や機械の調整ですが、もはや彼女なしではロボット手術が回らないくらいコミットしています。そして、たまに彼女の手技も見かけますが、おそらく普通の開心術の手伝いをしてもかなり上手なのだと思います。

いずれのPAも一定以上の技術を持っており、というか上の二人のPAは確実に僕なんかよりも手術が上手です。そんな人を助手において冠動脈バイパスとかやってると「もう、ジョン(G or S)やってよ」と思ったりします。数年前に上司が一度ジョン・Gに「手術、ジョンがやったほうがいいんじゃないの?」と聞いたことがある、と言っていました。それに対してジョン・Gは、本心かどうかはわかりませんが、「助手をするということと、手術をするということは違うよ」と返したみたいです。

彼らと僕らの違い、それは経験なのか、責任なのか、知識なのか、なんなのかはわかりません。が、逆に僕ら医師は、技術はもちろん大事なのですが、それ以外の要素である手術をマネージメントする考え方や、知識、感覚を身につけていくことが大事なのかな、と思うようになりました。


北原 大翔    シカゴ大学心臓胸部外科、心肺移植・機械式循環補助 クリニカルフェロー

1983年東京生まれ。2008年慶應義塾大学医学部卒業。
慶應義塾大学医学部外科学心臓血管外科に入局、その後同大学、東京大学、旭川医科大学で心臓血管外科として研修を行い、2016年9月渡米。若手心臓外科医の会 留学ブログ


編集部より:この記事は、シカゴ大学心臓胸部外科医・北原大翔氏の医療情報サイト『m3.com』での連載コラム 2018年4月8日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた北原氏、m3.com編集部に感謝いたします。