サッカーに詳しくない人の為の現代サッカー入門 --- 天野 貴昭

2018年05月10日 06:00

私は常々団体スポーツのスポーツガバナンス研究が我国社会の健全化にとって極めて重要であると感じているのですが、今回はハリルホッジ解任など最近何かと話題の多いサッカーを基軸にして組織論をまとめてみました。

現代サッカーの守備は守備であって守備ではありません

もし現代サッカーを野球に例えるならば…外野手であるDFは内外野境界線付近で一列にならび、内野手である中盤は投手とほぼ同じ高さに布陣し、そして広大な外野スペースをGK1人で守ります。

この超前進守備陣形を敷く事で、俗に“バイタルエリア”と呼ばれる相手チームのFWとそのすぐ後ろ(トップ下)に対して強烈なプレッシャーをかける事が可能となりました。

近代サッカーでの守備は競技レベルが上がる程「(ゴールを)守る」という要素よりも「(ボール所持者を)攻撃する」という要素が求められる様に進化したのです。

※余談ですが、この事でGKにかかる負担が激増する事になりました。宜しければ動画サイトなどで前回W杯覇者GKであるM・ノイアーをご覧ください。「リアル魔人ブウの生まれ変わり」を目撃する事が出来ます。

俗に「プレス」と呼ばれるこの守備ガバナンスは創始者であるA・サッキの躍進と共に世界へ広がりました。

いまや現代サッカーではトップ下がボールを所持した後、次の行動へ移る迄の猶予は1秒もありません。

トップ下でボールを貰い、振り向きざまにドリブル突破で相手DFをかわしながら、「デェい! 」の掛け声と共にドライブシュートを放つ…そんな世界は10年前に終焉を迎えているのです。

その為、かつてトップ下が担っていたゲームメーカー(司令塔)の役割は、イングランドのDベッカム選手の様な「サイドMF」や、ガンバ大阪の遠藤選手やなでしこの澤穂希選手・阪口選手の様な後方の守備的中盤(ボランチ/レジスタ)へ移行する事となります。

現代サッカーを支える「キャプテン石崎くん」

ところが超最新鋭のプレスは更に進化を遂げていて、先ほどの解説より更に前方、野球に例えれば、ほとんど1〜3塁ベース直上にDFがポジションします。

このコンパクトというよりも最早クレイジーと呼んだ方が相応しい守備体系の進化によって、サイドMFにもボランチにも司令塔ができる猶予が与えられなくなりました。

その結果、今の最新鋭サッカーではなんとサイドバックがゲームメイクを担います。

かつては地味なポジションの代名詞…「顔面ブロック」でお馴染だった漫画「キャプテン翼」の名脇役、「石崎くん」が近代サッカーでは司令塔をしているのです。

日本サッカー永遠のテーマ「司令塔問題」

この「司令塔(ゲームメーカー)をどこにするのか問題」は、日本サッカー成長に於ける最重要課題であり続けました。

今から20年前、ドーハの時代で既に限界の兆しを見せていた「トップ下司令塔ガバナンス」でしたが、トルシエの時代には(世界的には)すっかり前時代的な概念となっていました。

そのためトルシエはトップ下に森島寛晃というシュート力のある「中距離ミサイル」を据え、中村・小野という本来トップ下が得意なゲームメーカーをサイドMFに置き、名波をボランチにしてW杯に挑みましたが、何故か日本には「トップ下信仰」という謎概念があり、そのせいもあってかサイドMFでの適応に苦悩した中村が本戦メンバーから除外されるという苦渋の選択を強いられる事となります。

また今回のロシアW杯でハリルホジッチは、(現在の世界最高水準戦術と言って良い)サイドバックである長友を攻撃の基軸に据え、脚の速いサイドMF原口へのスルーパスと本田を始めとした逆サイドMFへの『スーパーサイドチェンジ』を武器にW杯へ挑むつもり…だった様ですが、皆様ご存知の通り、「後味の悪い顛末」を迎えてしまいました。

確かにガバナンスは新しければ良いという訳ではないとは私も思います。「モビルスーツの性能の差が戦力の決定的な差ではない事」は、わざわざ赤い彗星に教えて貰わなくても解っております。

しかしながら、いまやニュータイプ同士がファンネル飛ばし会う事が常識化している世界の大舞台へ「『日本人らしさ』という名の旧ザク」で挑んで本当に大丈夫なのか? これは正直相当不安です。

従って今月末に行われるガーナ戦では、個人的には結果もさる事ながら本戦に向けての戦術(ガバナンス)選択について大いに注目しています。

最後に

誤解して頂きたくないのですが、私はここで「サッカー知らない奴が偉そうな事を言うな」…といった、謂わば「ニワカ否定」をするつもりは全くありません。

先ほどご紹介したサッキ監督にはプロ選手経験がありません。他にもモウリーニョの様な「元通訳」という名将もいます。

「騎手になる為に馬に生まれる必要はない」…サッキ監督のこの名言? は(正直こんな言い方はヒドいなとも思いますが)我々がシビリアンコントロールについて考えて行く上で大きな意味を持つ言葉だと思っています。

スポーツトレーナーという仕事をしていると、生涯スポーツとして競技を楽しむ方からオリンピックの金メダリストまで実に様々な競技者とお話しさせて頂く機会があるのですが、他競技に秀でてサッカーが急成長した要因は「我々ニワカの話もしっかり聞ける体制を作る」というガバナンスを他競技より堅固に築けたからではないか、これは強豪チーム程、顕著にいえるのではないかと、と思っています。

次回はこのサッカー論を元に政治のガバナンスについて述べます

天野貴昭
トータルトレーニング&コンディショニングラボ/エアグランド代表

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