米朝首脳会談:トランプの2段階戦略と金正恩の思惑 --- 佐藤 鴻全

2018年05月13日 06:00

flickrより:編集部

首脳会談以降の展開

4月末の南北首脳会談、今月9日の北朝鮮により拘束されていた米国人3人の開放を経て、初の米朝首脳会談が6月12日にシンガポールで行われる事が決まった。(なお、事前の条件闘争により中止若しくは延期となる可能性は残る)

本年3月時点で筆者は、金正恩による核放棄はないだろうと予測していた。その予測自体には変更はないが、核放棄が無い場合のトランプによる「北爆」は米朝首脳会談後から11月の米中間選挙前の秋口迄に行われると見ていたが、その時期の修正を含め、現時点で筆者は今後の展開を以下のように考える。

  • 米朝首脳会談では、非核化のプロセスについて曖昧さを残すか、若しくは準備期間と工程を長めに取ったもので決着する。
  • トランプは、今回の金正恩による米国人解放と非核化の言質等の成果を利用し、弾劾回避等に向け中間選挙で上院の過半数死守を図る。
  • 一方の金正恩は、非核化の実行を引き延ばし、トランプの大統領選での敗北、若しくは再選後の引退を待つつもりである。
  • トランプは中間選挙後、非核化へ向けて北朝鮮への圧力を倍加させ、非核化の実現を目指し、それが叶わないと見れば「北爆」の実施を行い、何れかの「成果」を用い2020年の大統領選を勝ち抜くつもりである。

上記のように予測を変更した理由としては、金正恩が2度の訪中をして習近平の懐に飛び込んだ事が筆者にとっては想定外だったためである。

金正恩は、激しく批判し合っていた習近平に今更頭を下げられなく、頼りとするならプーチンであり、ロシア等への亡命(なお、この場合は非核化が有り得る)以外にないと考えていたが、中朝の利害が一致して当面は結束を深めるようだ。これで、中国の協力ないし容認を得られなくなり、トランプは「北爆」をやり難くなった。

問われる日本の主体性

これにより、束の間日本へのミサイル飛来等の危険は遠ざかったが、引き続き防空体制他の危機対応の備えを充実させて行く必要があるのは言うまでもない。

また、FNNは10日付で、下記のようなニュースを伝えた。

4月27日の南北首脳会談で、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長に日本人の拉致問題を提起した際、金委員長が「なぜ、日本は直接言ってこないのか」と語っていたことが、FNNの取材で明らかになった。

政府関係者によると、南北会談で文大統領から、日本が拉致問題の解決を求めていることを伝えると、金委員長は『韓国やアメリカなど、周りばかりが言ってきているが、なぜ日本は、直接言ってこないのか』と語ったという。

米朝首脳会談後に日朝首脳会談を構える事も含め、日本が改めて厳しく拉致問題の解決を要求する必要があるのは言うまでもないが、金正恩の発言からは南北統一を見据え文在寅と組んで、日本から金を取ろうとしているのが透けて見える。

日韓基本条約に於ける準賠償は、南北朝鮮をカバーしたものであり、2002年の小泉訪朝時に「平壌宣言」で謳われた実質的な拉致被害者開放の身代金としても本来金を払う必要はないが、国際世論の趨勢を鑑みれば、現実的にはある程度出さざるを得ないだろう。その相場は、無償分のみでは上限5千億円程度、それも核放棄、拉致解決、中距離ミサイル廃棄の実行後が必須条件だ。

残念ながら、反日国家と反日国家が組めば、反日は2倍でなく2乗となって、日本へ向かって来るだろう。これ等に対抗するためには、物事の理非曲直を明らかにし、戦略眼を備え粘り強く主張を通すタフネゴシエーターであると共に、国際世論を巻き込む事が出来るリーダーが不可欠だ。

しかし何れにせよ、今後の世界情勢の大局は、米中の覇権を掛けた冷戦が本戦であり、朝鮮半島処理はその前座に過ぎない。「北爆」が在ろうが無かろうが、非核化後のトランプのオプションの中には、コストと手間の掛かる朝鮮半島を捨てる選択肢が入っており、その場合日米同盟の極東の対中前線は対馬となる。

日本は尚一層、日米同盟の紐帯を強化すると同時に、防衛外交、経済、そして何より精神の主体性を高めて行く必要があるだろう。

佐藤 鴻全  政治外交ウォッチャー、ブロガー、会社員

HP佐藤総研

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